前回に引き続き、濵大輔です。早速授業に戻りましょう。まだご覧になっていない方は「ナレッジキャラバン in 大阪 2019 夏」レポート by 濵大輔 前編を一読ください。
では、前回のレポートで途中だった、薄茶色のビニール袋で三重に覆ったそれは、じわりじわりと姿を表わしたその中身は!
まさかのたこ焼き
「えっ! まさか…!?」
「たこ焼き!!」
予想外の出来事に皆さん触発されて頂けたのでしょうか。この後、ひとしきり写真撮影が行われまし
た。「学習者が前のめりになるような場面を作ること」は探究の入り口において特に重要なことだと
考えているので、これは嬉しい瞬間でした。
続いて、再び2つのサークルに分かれてそれぞれにたこ焼きを1パック手渡し、次のように伝えました。「今から、このたこ焼きをサークルの中で回してください。受け取った人は五感をフルに使って観察して、気づいたことや思ったことを一言いって、隣の人に渡してください。目だけじゃなくて、匂いをいでみたり、触ってみたり、もちろん食べてもいいです」
<たこ焼きを語る>
すると、皆さん口々にたこ焼きについて語り出しました。1周回ったチームには、追加してこうお伝え
しました。
「同じようにして、たこ焼きを目の前にして浮かんだアイディアや問いを1人一言ずつ出してみてください」
途切れることなく続くたこ焼きの話…。わたしは少し離れたところから見ているのが楽しくて仕方が
ありませんでした。終わりの時刻が近づいてきましたが、話が盛り上がり、アイディアや問い出しを最後まで終えていないチームがありました。しかし、1日限りの大規模なイベントですから、会の進行上時間通りきっちり終える必要がありました。
そこで、「イエナプラン教育では子どもがのっていればその活動は続けるし、もう集中が切れてきたな、頭がパンクしそうなのかな、と思えばそこで次の活動に移ったりもします。学校では大人が45分と決めているからその時間で区切ってしまいますが、現行の制度でも工夫次第でそこは柔軟に運用できます。だから、時間で子どもの学びを分断したりすることは本来勧められないのですが…ごめんなさいね」と伝えて、一旦活動を区切りました。
探究のタネ
「皆さん、どんなアイディアや問いが出ました? 何か面白いものはありましたか?」と尋ねると、「世界で一番大きなたこ焼きは?」「なぜ他のものじゃなくてタコなのか?」などと教えてくださいました。どれも興味深い探究のタネです。
ここで重要なのは、観察して感じたこともそこから生まれてきた探究のタネも、一人一人違うということ。「誰かから問いを与えられ、それに答える」という以上に「自ら問いを発する」ということ。ほんとうの(Authentic)探究とは、そういう学びなのだとわたしは考えます。*4
さらに、発想を広げるヒントとして、ハワード・ガードナーが提唱したマルチプル・インテリジェンス(多重性知能)*5 を紹介しました。8つの知能を総合的に育むことは、人間が全人格的に育つ「人間の学校」を求めるイエナプラン教育のみならず、IB教育でも共通して大切にされています。*6 *7
さて、楽しかった時間も、もうおしまい。短い時間でしたが、くだらないことでたくさん笑い合いました。せっかく出会ったのですから、一緒に歌を歌って楽しく終わりたい。そう思って、あるアニメの主題歌をご紹介しました。その名も「たこ焼きマントマン」。底抜けに明るいこの曲を、わたしのウクレレ伴奏とともにみんなで一緒に歌いました。
Joyful! Joyful!
ちなみに、全体会を挟んでの2回目の体験授業では、もう「たこ焼き」はいろんな意味で鮮度を失った教材だと思い、全く違うホンモノに触れて頂くことにしました。みんなで公園に出かけ、短い時間ながらいろんなものを解放して過ごしました。こちらの授業では、学校の壁を「超えた」ところに、たくさんの生きた学びのタネがあることが共有できていたら嬉しいです。
授業を振り返って一言、といわれれば、「楽しかった!」です。わたしはこの世界が Joyful であって欲しいと願っています。だから、シンプルにこれが一番大事だし、何を置いてもこれだけは感じられる場を作りたいと思っていました。
そして、そういう場は教師自身が歓びを感じられていなければ、まず実現することはないと考えています。今回、わたし自身が「楽しかった!」と感じられたのですから、授業の半分はひとまず成功したと思っています。願わくは、もう半分。参加者の皆さんにとってもJoyfulな時間になっていましたら嬉しいです(よろしければ、個別にフィードバックをください)。
最後に
スキルの習得、概念の獲得に向かう深い学び…それらを支えるものは、子どもの内側から湧き起こるモチベーションです。そして、それを触発するのは、わたしたち教師自身の内側から湧き起こるモチベーションでもあるはずです。わたしにとって、教師と子どもたちとの間に生まれる「Joy」、子どもたち同士の間に生まれる「Joy」の探究は、大変重要なテーマです。*8 これから先、わたしは度々次のように立ち止まって考えてみることでしょう。
「この授業(活動)は、本当にぜひ子どもたちと一緒にやりたいことなのか…。」
Joyful moment の生まれる探究を実現するための方途を、今まさに探究しています。もしご関心を寄せてくださる方がおりましたら、どうぞご連絡ください。ぜひお互いに学び合いましょう。( d.hama1021*gmail.com *を@に変更 )
最後になりましたが、熊谷先生はじめ、「ナレッジキャラバン in 大阪 2019 夏」に関わってくださった皆さまに感謝します。ありがとうございました!
参考文献等
*1 ▶『イエナプラン教育をやってみよう!』フレーク・フェルトハウズ & ヒュバート・ウィンタース(著)リヒテルズ直子(翻訳)2017 ほんの木
*2 ▶2019年5月・8月に参加した、日本のインプロ(即興芝居)の第一人者である今井純さんのワークショップで体験したワークを元にしています。 ▶インプロ・ライフ ~人生は即興芝居~ junimai-impro.com
*3 ▶『マインドセット「やればできる!」の研究』キャロル・S・ドゥエック(著)今西康子(翻訳)2016 早思社
*4 ▶’Learner Agency’ International Baccalaureate Organization 資料 2018
*5 ▶︎『多元的知能の世界ーMI理論の活用と可能性』ハワード・ガードナー(著) 黒上晴夫(翻訳) 2003 日本文教出版 他
*6 ▶︎『学校と授業の変革 小・イエナプラン』ペーター・ペーターゼン(著)三枝孝弘, 山崎準二(著訳)1984 明治図書
*7 ▶︎『PYPのつくり方 初等教育のための国際教育カリキュラムの枠組み』International Baccalaureate Organization(著・発行)2016
*8 ▶︎‘Dialogues of Joy: Shared Moments of Joy Between Teachers and Children in Early Childhood
Education Settings’ Satu Karjalainen, Eija Hanhimäki, Anna-Maija Puroila (著) 2019 International Journal of Early Childhood に収録