私は現在、大阪に国際バカロレア(IB)の教育プログラムのうち、高校生を対象としたディプロマ・プログラム(DP)を実施する大阪市立の学校を大阪市教育委員会のみなさんと一緒に作っています。この3月を以って前任校である筑波大学附属坂戸高等学校を退職しましたが、今後とも筑坂を定期的に訪問し、生徒のみなさんやDPを教える先生たちをサポートすることになっています。
勤務していた学校を退職したことで縁が切れるというよりは、教える学校は変わっても、関わり続けられる関係性を築けば、これまで勤務していた学校の子供たちにも、新しい学校で教える子供たちにも、より豊かな学習機会を提供できるようになるのではないかなと思っています。
だから、私の今年の課題は、筑坂のIB生たちと離れていても学習を支援することができる仕組みを作ることです。
楽しくてやりきれない
前回のエントリーで坂戸を訪問して筑坂IBコース一期生に授業をしたことを書きました。4月19日のことです。筑坂を離任したのが3月23日でしたから、在校生にしてみれば、舌の根も乾かぬうちに…という気持ちかもしれません。月1回くらいのペースで訪問することになると思いますが、今後2回3回と続けていくうちに、「あれこの人いなくなったんじゃなかったっけ?」ではなく、「ああ、今日もいる」みたいな別段珍しいことではなくなっていくことと思います。
さて、4月の「Knowledge Caravan at Tsukusaka」は、ひとつ完結しなかったアクティビティがあります。「知の理論(TOK)」の導入も考えていたのですが、思いのほかディスカッションが面白かったので、そこを掘り下げることにし、TOKについて仄めかすに留めました。楽しすぎて時間が足りなくなって、全部やりきれなかったというのが、本当のところです。
この導入で私がよくやるアクティビティが「Question!(質問をするということ)」です。SEKAI NO OWARIの「Death Disco」を聞いている時にヒントを得ました。私は彼らがその歌の中で、知識そのものに対して問いかけているように思えるんです。難しい文章を読むよりも、導入においてはTOK的に考えるマインドセットを形成するために、身近な素材から発展させていくのがいいのではないかと私は思っています。
Question!
会話においても、議論を進めていく過程でも、「質問をすること」は非常に重要な発話行動です。でも、あんまり私たちは上手じゃないですよね。なぜって、質問をすることで自分の理解度が明らかになるのが怖いからです。
小林秀雄が大学生に講義を行った後に質疑応答した記録が『学生との対話』という本にまとめられています。とってもいい本です。時に負けじとムキになる学生たちの鼻息が聞こえるようです。この本は質問をする側としても受ける側としても参考になることが多いです。
でもね、いきなり質問しろといって、まともな質問ができるようにはなりませんよね。中高生は。で、質問の内容が的を得ていない場合、指導者がバッサリその質問を切ってしまうのはあまりにも酷だと思うんです。
だから練習が必要です。今回のセッションでは、これから意味ある対話ができるように、深い議論ができるように、足場づくりとして質問をするというスキルを養う活動を行いました。
このアクティビティは「Closed Question」と「Open Question」という質問の種類を2つ提示し、そのサンプルからどのような特徴があるかを考えることから始めます。ざっくり言うと、前者は、「Yes/No」で答えられる単純な質問で、質問される側は比較的短時間で答えることができます。後者はいわゆる「5W1H」の質問で、答えは一定ではなく、答えるまでに考える時間が必要です。
Oh Yes, Oh No
そのうち、導入では2人ペアになって、学習者1が学習2に「Yes」と言わせるような「Closed Question」、次に、学習者2が学習者1に「No」と」答えさせるような質問を1~2分間で行います。その後、なぜ「Yes」と言わせることができたのか、「No」と言わせることができたのかを振り返ります。
そこが「どのようにして知ったのか」「何を知っているのか」といった知の理論の導入に使えます。知っていないと「Yes」も「No」も答えさせることができません。また知ろうとしないと質問そのものができません。
男子生徒に対して、「Are you a boy?」と聞いた女子生徒がいました。外国籍の生徒に対して、「Are you a Japanese?」と聞いた生徒がいました。バスケットボールが好きな生徒に、「Do you like playing basketball?」と聞いた生徒がいます。
では、なんでそういった質問をすることで、相手に「Yes/No」と言わせることができたのか。生徒たちが何をどのように知っていたから、それはできたのか。ここを見つめることで、私たちが知っていることとは何で、それをどのようにして知ったのか、または知っているのかにつなげることができます。
ここは授業内で触れることができなかったので、筑坂IB一期生のみなさん、「知の理論」の予習だと思って、何をどのように知っていたから、自分が問うた質問が相手に「Yes/No」と言わせることができたのか、考えて見てください(これ、宿題ね)。
最後に
この日のハイライトは、ある女子生徒が男子生徒に聞いた、この質問でした。
「Will you marry me?」
これ、「Yes/No」どちらを答えさせるための質問だと思います?本人は「No」と言わせようとしたんですが、もしもその男子生徒が「Yes」って答えたら面白いことになったのになぁと、みんなで笑いました。こういったユーモアはクラスの雰囲気をガラッと変えるんですね。次からみんなどっかで挟んでくると思いますよ。そうするとまだ授業が楽しくなる。だから次に筑坂に行くのが楽しみです。
後に、お父さんから伺ったのですが、その女子生徒は当たり前な質問が思い浮かばず、苦肉の策として「No」って言わせる質問はないかと考えに考えて、「結婚してくれる?」と聞いたそうなんです。いやぁ、面白い発想力ですよね。
そういったクリエイティブな発想力が、大人や自分が設けた枠を超えて、どんどん育っていってほしいと願っています。次は答えがひとつではない、オープンエンドの問いを作るということをやりたいと思っています。