みなさん、こんにちは。1週間ぶりですね。
2017年3月9日に阿部富子先生が書かれた「これまでも、これからも」で、私自身まだ言語化できていなかったことを気付かせてもらいました。
さて、今日は東日本大震災から6年目の3月11日ですね。
震災のことについて書こうとも思ったのですが、まだ整理がつかないこともあり、またいつかその時が来たらということにします。
今回は国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)の中でも私が最も興味を抱いているTOK(Theory of Knowledge:知の理論)の練習として、富子先生に見に来ていただいた授業について書きたいと思います。
English Caravanについて
「English Caravan(以下、EC)」は、私が勤めている筑波大学附属坂戸高校(以下、筑坂)で、あるトピックについて英語でディスカッションする課外授業です。TOKの実践を兼ねて、参加者の英語の流暢性および批判的思考力を高めるために、筑坂がIBの候補校になってから月2回のペースで開催しています。
近年学校教育では、批判的思考力を育成することの重要性が強調されていますよね。でも何を、どう指導するのかって、イマイチわからないままではないですか?
実際ECを始めた当初は、日本語の持つ「批判的思考力」という言葉の響きもあってか、アクティビティを実施しても参加者の戸惑いが多く、なかなか議論がかみ合いませんでした。参加生徒の英語力もまちまちだったので、英語でコミュニケーションをとるというレディネスを形成したのち、議論の発展から批判的思考力を高める活動を取り入れるようにしました。
現在は「一つの現象を多角的に理解しようとすること」を批判的思考力と位置づけ、参加者同士で考えをシェアしていく中で、その時間内で出せる仮の結論を出してみようというコンセプトで行っています。
非常時に優先されるもの
富子先生に見に来ていただいたセッションは「災害時に優先されるものは個人によってどのように異なるか」について、非常持ち出し袋に何を入れるかというアクティビティを通して議論しました。
生徒たちは東日本大震災時の記憶、その時の感情、そして震災前後で我々の生活はどのように変わったについて述べながら、非常持ち出し袋に入れる10アイテムをそれぞれピックアップします。そして、その10アイテムの中から、さらに5つ選択します。
取捨選択する過程で、自分の何を優先し、何を後回しにしたのか考えます。その選択には自身の価値観が反映されることを意識し、自らが下した判断の理由や動機について、グループごとにいくつかのキーワードをあげます。
ほとんどのグループは「生命の維持」を最も大事な要素として5つのアイテムを選んだと発表しました。他にも「精神的サポート」や「(他者との)繋がり」を大事にし、我々は一人でなく、コミュニティーの一員として暮らしていることが強調されました。
「持続性」を上げたグループは、避難所にいる時間が予定よりも長引くことを想定し、5つのアイテムの中に種を選んでいます。種を植え、収穫したものをみんなで分け合い、収穫したものを利用して、次の収穫に繋げられると。他にも、幼い妹がいたり、ペットがいたり、足の不自由なおばあさんがいたり、生徒が誰と生活をしているのかが色濃く反映されました。「ストレス発散」をキーワードにあげた生徒が選んだのは「酒」でした。自分のためではなくて、大人たちのためにだそうです…
人間は心の豊かさを求める生き物である
「自分はこうだ!お前はどう思う?」
生徒は自分の意見を語り、人の意見を求め、全員が参加する議論をいとも簡単に実現していました。マカオのIB研修で辛酸をなめた私は、内心「なんだコイツら」と悪態をつきましたよ。
被災地の高校で養護教諭として働く富子先生は、最後にこんなことをおっしゃいました。「衣食住が確保され、生き続けることに安心がもたらされると、被災地の人たちは心の豊かさを求めるようになった。つまり、芸術である。芸術こそ、最高のコミュニケーションツールだ。作者と自分の、作品を鑑賞する人同士の。豊かさなしに人は生きてはいけない。」
富子先生が言う、「心の豊かさ」は「知的好奇心を満たしたい」という欲求なのかもしれません。それを追い求めて、私は3年前、宮城から埼玉に出てきました。
最後に
TOKの手法は、災害が多い日本で、日本人がどのように災害と向き合ってきたのかを知り、その教訓を次の世代に、そして全世界に伝えるたに非常に有効だと私は考えています。予期せぬ規模の災害が起きたとき、命を救うことにつながる可能性があるからです。これをIBの学校だけで留めていてはもったいない、と私は思うんです。
来週、私は佐賀県美術館で池田学さんの作品展を見に行ってきます。
テレビで彼が震災後、アーティストとして描けること、描けないことと向き合い、考えに考え抜いた末に完成させた作品を見ながら、どんな対話が彼の作品とできるのか楽しみです。