「ナレッジキャラバン in 大阪 2019 夏」レポート by 千葉由希子

みなさん、はじめまして。千葉由希子と言います。私は大阪府の高校教員として国語を担当しています。私は熊谷先生と同じく宮城県出身です。大学卒業後、宮城県の高校教員として採用され、初任校で熊谷先生とご一緒しました。

自分探し

約20年前の21世紀初頭、日本では「自分探し」がブームでした。まだ20代前半の私は教職に就きながらも、自分のあり方や「ここではないどこか」を探していました。そんな悩みを聞いてもらいながら、どこか教員らしからぬ雰囲気を持っている熊谷先生に「将来は違う仕事してそうだよねー」と話した記憶があります。

その後、私は結婚を機に大阪府の高校教員になりました。今は育児と仕事のワークライフバランスにぶつかりながらの毎日を過ごしています(人間の悩みは時代とリンクしていますね)。あれから20年弱の月日が流れ…約1年前、大阪にやって来た熊谷先生とお会いすると、相変わらずのバイタリティは私の想像の斜め上をいくものでした(笑)。

熊谷先生からの誘いはいつも突然に「こんなのあるけどどう?」と気軽なんです。そんないつもの調子に手を挙げてしまう私もどうかと思うのですが、面白そうなことには黙っていられず返事をしました。
が、その翌日、企画書がメールで送られてきて、「しまった!」と思いました。公立高校でフツーに授業している私に一体何ができるのかと。

でも、それこそが今回の「自分探し」のスタート地点だったように思います。私は教員として何者なのかと。

シフトチェンジ

日本の教育は学習指導要領に沿って行われています。その新改訂を目前に授業はすでに変化しています。この20年間で教育のあり方はもちろんのこと、教員の役割も変化しています。その変容について、個人的な解釈と普段の授業での実践例をお伝えしました。

当日の教材は「羅生門」を使いました。今年受け持っている高校1年生の授業では「読むこと」そのものを意識させることから始めてみようと考えて授業を行っています。現代文の評論・小説ともに教えることから生徒が学ぶことに焦点をあて、そのために何をすべきかということにシフトチェンジする試行錯誤の1年でもあります。

今回はごく簡単に、読解に必要な要素を示すことで、小説の世界をイメージしにくい、関心を持ちにくい生徒ヘ向けて理解を促すために行ったものです。小説の世界観を生徒自身の中で映像化しながら読んでいくために、人物の言動と心情に注目しながら読んでいく、という実践について体験してもらいました。

私自身の課題

多くの実践を行っていらっしゃる参加者の皆さんにとって、私の今回の試みは「羅生門」の新しい取り組みの中での私自身の課題を露呈したに過ぎず、好事例を期待されて来られた方には物足りなかったことと思います。

そして何より、高校生ではなく先生方を中心とするオトナの方に向けての体験授業という、初めての挑戦に緊張しすぎて、双方向のやりとりができなかったことも申し訳なく思います。そうであるにも関わらず、皆さんからのメッセージには温かいコメントをいただきました。

参加してくださった方々には、この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

最後に

私は公立高校の教員として「高校は卒業しておきたい」生徒や、「大学受験のための通過点」の生徒を対象として授業を行ってきました。赴任先のニーズに応えることは時として転職に等しいほど、高校の教員の仕事は振り幅が大きいものです。そこが困難でありながら面白いところでもあり、たくさんの壁にぶち当たりながらここまで仕事を続けてきました。

そんな中で、私が授業の中で一貫して目指してきたことは、「分かった」経験を子どもたちにしてほしいということです。「分かった」から、「さらに知りたい」という知的好奇心を育みたいと思いながらも、「教えてくれる」から好奇心が前に進まないでいる、そこが難しい課題だと感じています。

しかし、時代は変化しています。かつて「答えが分かること」がゴールだった学習は「答えを考えること」にシフトしていこうとしていますが、まだまだ社会の意識は「分かること」の方に重きが置かれているようです。

だからこそ、これから予測不可能な未来を生き抜くために必要な「主体的・対話的で深い学び」という新しいメッセージが発信されています。子どもたち自身が主体性を持って学んでいくために私たちオトナにできることは何なのか、教員の役割そのものが変化の時期を迎えています。そんな時代の教員であることに意義を感じ、生徒たちと向き合っていこうと気持ち新たに2学期をスタートした次第です。