ToKtober Fest 2021: 世界なんてない

ToKtober Fest 2021全6回中の第2回の今回は、埼玉県都幾川町に暮らす兄弟をイメージして熊谷が小学生向けに創作した『ぼくらの世界(仮)』という幻の第一話を再度取り上げたいと思います。第2話以降、10話まで書いているそうなんですが、いまいちしっくり来ないと今は寝かせている状態だそうです。

まずは熊谷が書いた創作意図を紹介して、お話に進みましょう。

ぼくらの世界(仮)

国際バカロレア・ディプロマプラグラムをよりよく学ぶためにという理由だけでなく、目まぐるしく変化するこのグローバル社会で主体的に行きていくために、小学生のうちから自ら問いを立て、その問いを解決できるスキルを養うことはとても大切だと私は考えています。

その一助になるものはないかなと思いこのお話を試しに書いてみました。食卓が主体的な学び場であってほしいとお父さん、お母さんにもその学びに参加ほしいので、物語は兄弟の対話で進んでいきます。ぜひ、どちらか役を決めて音読してほしいです。

特に小さいお子さんをお持ちのお父さん、お母さんにはメタ認知を育てるのにもってこいだと私の経験を踏まえて音読を勧めています。シアターラーニングの手法です。誰かの立場になってみると理解できることは自分の範囲を超えますからね。

「ぼくらの世界(仮)」の主人公は小学校3年生の仁(じん)という名前の男の子とそのお兄ちゃんです。二人は夜な夜なその時疑問に思ったことを話し合います。いわば知識の旅をするわけです。最近小学生を話をする機会が多いのですが、みんな素直な疑問を持っているんですよね。そんなことを物語では取り上げています。

では、物語は自然豊かな内陸の町、埼玉県都幾川町に物語は始まります。

『ぼくらの世界(仮)第一話:世界なんてない』

ぼくの名前は仁(じん)。わけあって永遠の小学3年生です。ぼくにはお兄ちゃんがいて、毎晩、電気を全部消したあと、夜な夜ないろんな話をするんだ。

「なぁ、仁……」ってお兄ちゃんが話しかけてきたら、それが合図。そ夕べもいきなり、お兄ちゃんは突然、ぼくにこんなことを聞いてきました。

「仁、世界ってどこにあると思う?世界、世界ってみんな言うけど、本当に世界なんてあるのかな?」

「目の前に見えているのが世界じゃないの?」ってぼくは思いました。お兄ちゃんがぼくの隣に寝ていて、今夜は月が明るくて、穴の空いた障子のずっと向こうからおばあちゃんの寝息が聞こえたり、聞こえなかったり。ぼくたちの家は川のすぐ近くにあって、その向こうにはカナヘビが出る山があって。「それが世界なんじゃないの?」ってぼくは思いました。

でも、お兄ちゃんはゆっくりと、頭の中で何かを探りながらこう言うんです。

「仁、お兄ちゃんさ、本当は世界なんてないんじゃないかって思うんだ。」

「え?じゃあ、目の前に見えてるのは何なの?」

「お兄ちゃんに見えてる世界って、お兄ちゃんだけの世界なんじゃないかなって。仁がいるとこは仁の世界。お兄ちゃんの世界には仁がいるよ。でも、お兄ちゃんの世界には、いない人もいる。」

「お兄ちゃんの世界にいない人?」

「お兄ちゃんは気づいていないけど、この星には実際はものすごくたくさんの人がいるんだ。でもお兄ちゃんはその人達をぜんぜん知らない。その人達はお兄ちゃんの世界にはいないだろう?」

「じゃあさ、お兄ちゃんは知らないけど、お兄ちゃんのことを知っていたら、その人の世界にはお兄ちゃんはいるってこと?」

お兄ちゃんは続けます。ぼくはお兄ちゃんが何を言おうとしているのか必死に理解しようと聞いています。

「逆もあるか……。お兄ちゃんが知らない誰かが、お兄ちゃんのことを知っていたら、その人の世界には確かにお兄ちゃんはいる。けど、お兄ちゃんはその人のことを知らないから、お兄ちゃんの世界にその人はいない。」

「お兄ちゃんのことを知らない人もたくさんいるよね?」

「仁のことを知らない人もたくさんいる。その人達の世界には仁はいない。でも、お兄ちゃんの世界にはいつも仁がいる。いつもね。誰かの世界にいなくても、お兄ちゃんの世界には確かに仁がいる。」

「じゃあ、ぼくたちにはぼくたちだけの世界があるってこと?」

少しの間、お兄ちゃんは考えて、そしてこう言いました。

「世界は無限にあるんじゃないかなって。人の数だけ、命の数だけ。そしてそれらは一個一個、別の世界を生きてるんじゃないかなって。だからさ、誰かの世界にいないからってその人がいないわけじゃない。ホントはみんないるんだ。気がつかないだけで、知らないだけで、ホントはみんないるんだ。うーん……。」

人の数だけ、命の数だけ世界はあるって言ったまま、お兄ちゃんは寝てしまいました。お兄ちゃんはだたいずるいんだ。自分が話したいことを話すだけ話したら、いつもこんな風にぼくだけ残して寝ちゃうんだから。

でも、世界ってなんだろう。

それからぼくは考えてみました。お兄ちゃんはお兄ちゃんの世界を生きていて、ぼくはぼくの世界を生きているけど、どっちの世界にもお兄ちゃんとぼくはいるでしょう?

だったら世界は無限にあるっていっても、別々にあるんじゃなくて、重なり合ってるんじゃないかな。でも、お互いに知らないまんまだったら、重なり合わないこともあるか……。重なり合ってたけど、重なりがなくなってしまったり、重なりがなかったけど、なにかのきっかけで重なりができたりってこともあるよね。

じゃあ、世界は変わり続けてるってことだ!

ぼくたちはずっと同じ世界を生きるんじゃないんだ。ちょっとずつ違ってくんだね。だから重ならなくなった世界をさみしがることはないんだ。だってみんな、それぞれの世界を生き続けているんだから。

ぼくの世界はどうだろう。最初っからぼくの世界の大きさって決まってるのかな?どんどん大きくなるかな……。小さくはならないような気がする。だってぼくの体は大きくなったし、やれることも多くなった。世界はだんだん大きくなって、で、知り合いもたくさんできるから重なりも広がっていくんだと思う。

待てよ。世界ってどんな形をしてるんだろう。ぼくの世界は平面なのかな。自由自在に形を変えるのかな。ぼくの世界はどうやって始まって、どうやって終わるんだろう。それともずっと永遠にぼくの世界はあり続けるのかな。

ぼくがいる世界とぼくがいない世界。お兄ちゃんがいる世界とお兄ちゃんがいる世界。世界って何なんだろう。世界ってどうなってるんだろう。

ねえ、みんなはどう思う?