未来の先生展レポート vol.2

皆さんこんにちは。茗溪学園中学校高等学校でIBDPコーディネーターをしております松崎秀彰です。

熊谷がシンガポールで行われたIBのカンファレンスに参加しました。
シンガポールで行われたIBのカンファレンスに参加した松崎先生の寄稿です。

3月にシンガポールで開催されたIBグローバルコンファレンス(IB教員が1,800名ほど参加しての実践報告などが行われました)の後に熊谷先生と「何か一緒にやりましょう」という話は9月15日、16日に行われた「未来の先生展2018」にて実現します。私たちは「IBは日本の教育を変えるのか」というお題で、1時間のワークショップと発表を行いました。

発表を終えてすでに3週間ほど経った、この原稿を書いている現在(今は本校のIB生を連れて、シドニー近郊のウロンゴンという街で、The Illawarra Grammar SchoolというIB校と交流をしています)、振り返って思うのは、おそらくどの参加者よりも発表を行った自分が一番勉強になったということです。

準備段階でのメールのやり取りは非常に刺激的でしたし、「お天気祭り」での先生方のお話も大変面白く、本番でも参加していただいた皆さまから、その反応やワークショップでのフィードバックの内容などを通して多くの学びをもらいました。

発表の最初に台湾の明道中學の阿部先生からあった「自分に一番遠いと思われるIBの10の学習者像は何か」という問いでは、毎日バタバタと過ごしている私は「振り返りのできる人」を挙げました。今回もまた遅くなってしまいましたが、このプロジェクトについて振り返ってみたいと思います。

チームについて

筑波大学の「IB連携会議」(筑波大学大学院のIB教員養成コースと附属坂戸高校と茗溪学園とで定期的に実施しています)で出会った熊谷先生、同じくIB関係の会議の後で夕飯をご一緒させていただいた石田先生、また熊谷先生を通して茗溪学園も訪問していただいた阿部先生は、IBがなかったら知り合うこともなかった先生方です。

そしてお互いにrisk-taker(挑戦する人)でもあるがために、思いつきでどんなことを発言してもよいという雰囲気のもとでメールのやり取りができたことで、自分がふと思った疑問をぶつけて、それに対して思いもしなかったヒントが得られたりして、このような「学び」の形態も面白いなと思いました。自分がふと思って投げかけたことをどんどん膨らませてもらい、そこからさらに新しいことがひらめくという感じでした。

が、一時期調子に乗り脱線しかけた時にはGFK(Great Facilitator Kumagai)の熊谷先生からの、「我々が与える問いを再確認するべきではないか」という鋭い指摘もあり、生徒さんたちから「赤鬼」と呼ばれているという理由がよーく分かったこともありました(笑)。

阿部先生のワークショップ

阿部先生には7月の終わりに茗溪学園を訪問されたときも大変話が盛り上がったのですが、当日はIB生も7人参加している吹奏楽部の定期演奏会があったため、夕食をご一緒できませんでした。なので、今回の「お天気祭り」は楽しみでした。阿部先生からお話を聞くにつれ、阿部先生が勤務されている台中の学校を訪問してみたいと思うようになりました。IB校同士としての交流も実現できたら面白いと思います(早速、熊谷先生が動いていますね)。

当日、直前に広尾のオシャレなカフェで最終の打ち合わせ(というよりも雑談の方が多かったのですが)をしている時、ふと熊谷先生が阿部先生に、「もしかして緊張してます?」と聞きました。阿部先生は2週間前からずっと緊張していると答えていました。

が、始まってみればさすがプロ。緊張感など全く感じられない進行で、「自分に一番当てはまらないIBの学習者像」を挙げてのグループでの自己紹介と、それに続く日本の教育が伸ばしている力に一番当てはまらないIBの学習者像を考えるというワークショップ形式の進行も非常にスムーズにこなされていました。

そしてやはりなんといっても、「台湾から見た日本の教育」という視点は阿部先生しか持ち得ない視点でした。台湾では欠点もあったりバランスも取れていない部分もあったりする分、いろいろなことに挑戦できる。日本の教育はある程度完成度も高く、バランスが取れている分、新しいことに挑戦できない点もあるのではないか、という阿部先生の指摘には、参加者の皆さんもウンウンと頷いていました。外から見た視点は日本の教育をより深く知るためには大変役に立つと感じた瞬間でした。

CASの学習成果と日本の教育

自分の担当のところでは、IBのCAS(Creativity, Activity, Service:創造性・活動・奉仕)の「7つの学習成果」という、CASのプログラムの過程で生徒ができるようになることが求められる7つの要素を提示しました。分かりやすく解釈した以下の7つを提示し、部活動・文化祭・給食当番について、最も当てはまらないものをグループで選んでもらうという活動を行いました。

  1. 現在の自分の力を把握し、さらに伸ばしていく
  2. 新たな挑戦をし、その過程で新たなスキルを身につける
  3. 自ら活動を計画し、実行する
  4. 責任感をもち、根気よく活動を遂行する
  5. 他人と協力して行うことに利点を見出し、スキルを発揮することができる
  6. 地球規模の重要な課題(社会問題)に取り組む
  7. 自分の取り組みの倫理的な意味を考え、その意図にそった行動ができる

セッションの開始前は、机も長机であまりグループワークをするような雰囲気にならないのではないかと心配したりしましたが、参加者の皆さんが本当に素晴らしく、時間がもっと欲しいと思うほど議論も大変盛り上がりました。読者の皆さんはそれぞれどれが一番当てはまらないと思いますか?

自分のところのまとめでは、部活や給食当番など、日本では当たり前のように行われていることが実は当たり前ではなく、上に挙げたようなスキルのいくつかも涵養していて、OECDの研究などでも日本の教育が注目されているという話をしました。

IBの話を聞きに来る方々はIBの方が日本の教育より優れているという先入観を持っている人も多いと思われるので、IBの視点から見ると日本の教育にも優れている点があることを紹介しましょう、という今回の発表の目的の1つは達成できたかと思います。

最後に

振り返ると「IBは日本の教育を変えるのか」というテーマでもあったので、実際にIB校になって変わったことや分かったことも紹介しておけばよかったと思っています。海外の大学が直接学校に説明会に来てくれるようになったことや、今回のようなIB校同士の繋がりができたこと(アフリカのIB校からメールをもらったりもしています)、IB生たちの「授業は超大変だけれども超楽しい」という感想、学校が起こそうとしていた変革とIBの方向、文部科学省が変えようとしている教育などが有機的に繋がっていることなども、また機会があれば紹介できればと思っています。

今回は本当に自分が一番勉強になったと感じています。IBを通した拡がりも貴重で、東京学芸大附属国際中等教育学校やUWC日本校のISAKとも交流をさせていただき、今訪問中のオーストラリアのIB校の先生方ともIBという共通言語と理念を媒介として交流して世界が広がっています。今回の発表も「IB仲間」の3人の先生たちとこのようなプロジェクト、コラボレーションができたことは、今後の様々な発展の可能性につながっていくはずで、これからどんなことが起こるのか非常に楽しみです。