今からIBを始める君へ:教員生活を振り返って vol.2

皆さん、こんにちは。前回に引き続き、立命館小学校の川本敦がお送りいたします。今回は私がどのようにして国際バカロレアという教育プログラムと出会ったのかについてお話します。

IBとの出会い

その後、知り合いの先生から、「うちの学校は今探究学習を研究・実践しているよ。もし興味があるんだったら、採用試験受けてみたら?」とお声かけいただき、その私立小学校に異動しました。その私立小学校が研究・実践していたのが、IBの初等教育プログラムであるPYPだったのです。

私が異動した小学校のPYPコーディネーターが東京コミュニティスクール創設者である久保一之さんでした。初めて久保さんが主催されるワークショップに参加したときに、インターナショナルスクールの先生方に混じって、「Concept(概念)とは何かについて話し合うワーク」に参加した時の衝撃は、今でも忘れることができません。

周りの先生方が、次々と発言される中、私はほとんど何も言うことができなかったと思います。それまでにConcept(概念)と言う言葉に出会ったことがなかったですし、考えたこともなかったのですから・・・。

魅せられて

そんな探究学習との出会いから、小学校で探究学習を研究し、授業実践を積み重ねていきました。また年に数回行われていた東京コミュニティスクールのワークショップに参加し続けました。

通常の日本の教育のカリキュラムからPYPへの移行に四苦八苦し、試行錯誤し続けましたが、残念ながら学校法人の方針転換により、その小学校はIB教育を実施しないこととなりました。

PYPを研究・実践し、PYPの魅力に魅了されていた私は、また別のPYP候補校を探し、異動しました。様々なご縁や家庭の事情もあり、現在に至ります。日本の3校の私立小学校でPYPを経験できたことは、私にとってとても貴重な経験となりました。

PYPから離れて

現在の私は、IB教育を行っていません。しかし、PYPから離れたことで見えたり、感じたりすることがたくさんあります。日本の教育は、今回の学習指導要領の改訂により、資質・能力の育成に重きを置く、コンピテンシーベースとなりました。

PYPの良かった点の1つに、このコンピテンシーが明確にまとめられているところです。PYPは、カリキュラムのフレームであるので、1つ1つのコンピテンシー(資質・能力)については、学校としてどう捉え、教育活動を行うかについては議論し続けなければなりません。しかし、まだ日本の教育では明確になっていないコンピテンシーがPYPでは明確になっています。これは、これからの日本の教育にとって大いに参考にすべきところだと考えています。

またPYPは、学校組織としてコンピテンシーを育て、探究学習を進める仕組みが素晴らしいです。どうしても私が経験した日本の小学校教育は、教科書をもとにして、教員が一人で進めるものになりがちでした。PYPのフレームがあることで、学校・教員が協働で行う教育活動の方向性がしっかりとしたものになります。また教員が協働設計により、探究学習を計画し、実践していく仕組みも素晴らしいです。PYPコーディネーターという存在も、学校組織として、探究学習を進める上で大変助けになります。


PYPを研究・実践してきて、苦労した点は、教科書を中心とした学習から教員たちが自ら創り上げる学習に変えることの難しさです。PYPのカリキュラムと言えど、前年度にあったものをそのまま実施するだけでは、何も教科書を中心とした学習と変わりません。新たな探究学習を創り上げるときは当然ながら、前年度の計画を土台にして、探究学習を計画・実施するときも、教員集団で協働で探究学習を創り上げないといけないのです。

PYPを導入するだけでは、魅力的な探究学習を行うことはできません。魅力的な探究学習を行うためには、教員が探究を探究し、教員たちがPYPの目指す学習者・探究者とならないといけないのです。

PYPの探究学習を行ってから、私自身もPYPの目指す学習者・探究者となり、子どもたちと一緒に授業を創り上げるようになりました。教員が子どもたちと一緒に探究者となり、学習者として、探究していくことのできるところに喜びを感じます。また学校の教職員全員で、協働して子どもたちの成長を支えていくことのできることも大変魅力的でした。

最後に

長々と自分の教員生活を振り返ってきました。私の教員生活の約半分がPYPです。PYPに出会うことができて、本当に良かったと思っています。IB教育全体をよく知っておられる先生が、PYPが1番IB教育のよさを実感できると話されていました。

今の日本のIB教育の話題の中心は、大学進学につながるDP、またその下のMYPですが、PYPには魅力がいっぱいあります。PYPから離れた私の役割は、PYPで学んだことをPYPを導入していない学校で、実践し役立てていくことだと思っています。

ぜひ一緒にIBやPYPについて学び、日本の教育をより良いものにしていきましょう。また次回皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。