樹高千丈落葉帰根

みなさん、こんにちは。熊谷優一です。

まずはこの3月をもちまして大阪市立水都国際中学校高等学校を退職することをご報告します。開校までの1年、開校して2年、お世話になったみなさんに心より感謝申し上げます。

2023年にIB校認定を受ける大阪市のデザインを3年前倒しし、高校1期生からディプロマ・プログラムを提供できるよう2020年に認定を目指すことが私に課されたミッションでした。開校前、一人の先生もいない中、なかなかのチャレンジではありました(笑)。

思い切って謙遜せずに言いますが、そんなの無理だと言われる中、それが実現できたのは、私が国際バカロレアコーディネーターとして、前任校である筑波大学附属坂戸高校でIB認定を受け、水都国際が2校目だったというのも大きかったと思います(おかげさまで日本人で唯一2つの学校をIB認定に導いたコーディネーターになりました)。もちろん、たくさんの方々のサポートあってのことですよ!

もうIB認定校の数の増加に注目しても意味はない

国公立の学校で、国公立の学費で、子どもたちにより幅広い学習機会を提供できることは一教育者としてこの上ない幸せです。これまで国際バカロレアのプログラムはインターナショナルスクールや私立の学校でしか提供されてきませんでした。その授業料を考えると、挑戦したくても断念せざるを得なかったと子どもたちは多かったと思います。

国際バカロレアのディプロマ・プログラムが英語と日本語で提供されるようになって、もう6年がたちます。認定校の数の増加が話題になりますが、学習者にとって、それは問題ではありません。学んでいる子どもたちにとっては学習の質が担保されているのか、それが一番です。

学校は、教育委員会は、教員は、IB認定を受けることがゴールではなく、子どもたちがよりよく学べるように環境を作ることが必要です。学習と指導の質は本当に高まっているでしょうか。高める努力がなされているでしょうか。IB認定を目標とするのではなく、その先を描く必要があります。

私たちはどこまで行けるだろう

私は今から24年前に宮城県県立高校の教員としてキャリアをスタートさせました。11年で3つの学校で教えたあと、国費留学生として韓国の延世大学大学院で博士課程前期を終えました。その後、筑波大学附属坂戸高校でIBと出会い、大阪に来ました。

中島みゆきの「樹高千丈落葉帰根(アルバム「心守歌」より)という歌にこんなフレーズがあります。

「私はどこまで行けるでしょう 空まで上って行くかしら
それとも違う土地へ行き 望み叶わずに散るかしら」

お前みたいなバカにやれるはずないだろう。周りのすべての人にそう言われて私は育ちました。それもそうだなって悟りかけていたのですが、どうしてもやりたいという衝動に勝てず、今に至ります。でも、やってみたら、案外できたってことはたくさんありました。

今後は1つの学校に所属するのではなく、国内外のマナビバでより良く学ぶ環境づくりに従事します。そしてその過程を見せることによって、日本の教育に何らかのインパクトを与えられないかと考えています。またバカだって言われるかもしれませんが、結構本気です。

教育者としてのコア

「経済格差や地域格差が教育格差を生まない仕組みを作りたい」

私の教育者としてのコアはただこの一言に尽きます。それは私の生い立ちや東日本大震災の被災地である宮城県気仙沼市出身というのが大きく関わっています。学業を継続するために学費を工面することはいつも私にとって最大の課題でした。現在は高校の学費は家計の収入によって無償化されたり、支援を受けることが可能ですし、私が高校生だった30年前より高校生や大学生が受けられる奨学金の種類も格段に増えています。

また、全てではないもののいくつかの自治体では国際バカロレアのプログラムが公立で受講できるようになるなど、より学習の幅が広がっています。国際バカロレアの学習への取り組みは私がまさにこんな風に学びたかったと思っていた学び方そのものです。それが公立の授業料で受講できる時代になったのです。

IBだけでなく様々な特色ある学習プログラムが日本の公教育に導入されるようになってきた昨今、これから学ぶ子どもたちは、より自分の学び方に適した学習プログラムを選択できるようになるでしょう。しかしながら、子どもが、親が、多様な学習機会を選択するのに十分な情報や体験の機会はまだ十分と言えません。それをわかりやすい言葉で、他のプログラムと比較しながら、メリットとデメリットが説明されなければなりません。

それができるようになるために、私ももっともっと勉強が必要です。もっと幅広い学習の文脈を知る必要があります。そのため、国内外で学習に関連する仕事をすることにしました。

最後に

どんな環境であっても、子どもたちがよりよく学ぶことができるよう工夫することはできます。例えばこの前リリースした読書会はいつでも、どこでも、誰でも取り組むことができます。今の学校教育の枠の中でも、まだまだできることはあるんじゃないでしょうか。

そんな「まだまだできること」を集めたいんです。まずは国内外に点在する教育者の実践を「チノメザメ~21世紀を学ぶ君へ~」に寄稿してもらうことにより、教育の可能性を実感できるようにしたいのです。このブログがそんなプラットフォームになったらいいなと思っています。そして、大人も子供も、どこで生まれ育っても、100%思い通りにならないとしても、何らかの形でチャレンジできるかもしれないって信じてもらえたら嬉しいです。

これまではすべてボランティアで書いていただきましたが、これからはより多くの「まだまだできること」を集めるために、経験や知見を共有してもらえる教育者のみなさんに謝礼を渡せるようにしたいと思っています。なぜならそれらは価値があるものだからです。その資金を調達するために、企業広告や協賛を募集することにしました。次回、詳しく説明したいと思います。

昨年予定していた第2回のナレッジキャラバンも今年は何らかの形で実現できたらと思っています。4月以降もブログやイベントは続けていきますので、引き続きお付き合いいただければ幸いです。ぜひこれからの教育について一緒に考えてまいりましょう!