生徒のみなさん、間もなく夏休みが始まりますね。この時期、本屋さんでは出版社ごとに夏の100冊とかって読書を勧めてきますよね。この間、本を読むことについて、このブログに登場する教え子たちとディスカッションしました。みんなの本の読み方って違うんですね。ジャンルによっても読み方を変えてくる。読み方によって入手ルートも変わる。
話していて、気づくことがたくさんあって、とても面白かったんですよね。今回は本をテーマに書いてみたいと思います。
本を読む目的
リラックスするため、歌うため、踊るため、演奏するときに参考にするためなどなど、音楽を聴くときも人それぞれ、場面場面で目的が異なります。それと同様に本を読むことも、みんなそれぞれ目的が異なるようなんですよね。
情報を入手するためだったり、物語に身を任せて楽しんだり、自分が言いたいことを読むことによって明確にするためだったり、言葉を知るためだったり、ただの暇つぶしだったり。誰かから紹介された本を試しに読んでいるうちに、どんどん興味が湧いてきて来て、関連する本を何冊も読む羽目になったり。
本にまつわる話は人それぞれ本当に多様で、それを聞くだけで楽しい気持ちになります。私は本を読むことによって自分が潜在的に思っていたことを言語化されているのを読んだとき、テンションが上がります。そう!これを言いたかったんだって。どちらかというと、頭の中を整理するために本という道具と読書という方法が必要なのかなと思っています。
みなさんは、本をどう読みますか?
ヒトとキカイ
今、私は鹿間謙伍くんが薦めてくれたマーク・トウェインの「人間とは何か」を読んでいます。
この作品の帯には、「人間は機械だ」という衝撃的な言葉が書かれてあります。若者と老人の対話で進むこの話はマークイ・トウェインのユーモアというか、毒が垣間見え、ニヤリとします。
似たような題材を扱った、海猫沢めろん著「明日、機械がヒトになる」というルポルタージュがあります。
海猫沢めろんさんは「ご本出しておきますね?」というテレビ番組で知りました。考えていることが独創的で面白いと思って読んだのですが、なんてたくさんの問いが投げかけられていることでしょう。
「道徳って何のためにあるんだろう」「道具は思考をどの程度規定するのか」「意味と価値は予め存在するのか、それとも後付けされるものか」などなど、AIやVR、SRなどの最新テクノロジーの専門家たちへのインタビューをもとに書かれたこの作品から、たくさん質問が生まれてきます。
この本は中高生のみなさんにとって読みやすいと思います。海猫沢めろんさんのインタビューの仕方も先生として授業で生徒に質問するときに参考にもなりました。「対話を通した主体的な学び」のヒントを見つけたと思いました。教える方も、学ぶ方も、これからの学び方を理解するのにも適していると感じています。
言いたいことを言うために読む
今、日本の教育は大きな変換点を迎えています。業界では明治維新以来の大改革なんて言われたりもしていますよね。大学入試改革もそうですし、経済産業省が未来の教室を提言したのも、学習指導要領の縛りを超えた国際バカロレアのプログラムが一条校で実施できるようになったのも、その一連の流れの中にあります。
私が国際バカロレア・ディプロマ・プログラムのコーディネーターになってから4年目になりますかね。当時はIBはほとんど認知されていませんでしたし、その教育プログラムがなぜ日本に導入されるようになったのか、なぜ必要なのかといったことも含めて、私には勤務校はもちろん、PTA、筑波大学での様々な会議でも話さなければなりませんでした。
コーディネーターとはいえ、たまたま指名されただけであって、私も普通の一教員でしたから、すぐにはうまく説明できませんでした。事実に基づいた情報だけではなかなか伝わらないんです。かといって、浮ついた話をすれば、「熊谷、甘い」と叱責されることもありました。
そんな時出会ったのが、「ライフシフト」「ライフロング・キンダーガーテン 創造的思考力を育む4つの原則」という本です。この2冊には本当に助けられました。どちらかというと前者は中高生の保護者のみなさん向け、後者は幼稚園・小学校の保護者のみなさん向けの本かなと思います。
21世紀を学ぶ君へ
プログラミング教育が小学校から導入されることが決まりましたよね。「何で?」「負担がまた増える」と思う先生方も多いと思いますし、保護者のみなさんにとってもいまいちその必要性がピンと来ていないのではないでしょうか。
「ライフロング・キンダーガーテン 創造的思考力を育む4つの原則」を読んで、私はストンと納得できましたし、早期プログラミング教育が育む能力に期待するようになりました。今、学んでいる子供たちが大人になったとき、といってもたった10年、20年先のことですが、急速に変化し続けるグローバル社会において、これまで人類が経験したことがない新たな課題に直面していくことでしょう。
学校の成績やテストの点数が高いことがそんな時代を生き抜くことの担保になるでしょうか。単に教科書に書かれた問題を解決するのではなく、自ら課題を見つけ、創造的かつ革新的に解決するマインドをもって、自ら新しい方向性を生み出す人材が産業から求められています。経済産業省は、それをチェンジメーカーという言葉で説明していますね。
「ライフシフト」はIBについて知りたい先生方や保護者のみなさんにはいつもお薦めしている一冊です。学ぶことそのものの新しい意味づけについてわかりやすく時代背景を絡めて説明しています。私はこの本を読んで、「そうそう。だから必要なんだよね」って大きくうなずきました。
だって、人生がもしも100年続くとしたら、例えば大学までで勉強したことでは知識もスキルも途中で枯渇してしまいますよね。途中でまた学びなおすことが必要となってきます。学校の役割は学習者に生涯に渡って学び続ける知的体力を培うことにシフトしていきます。とすると、探求型学習っていうのはやっぱり必要だってなるし、学んだことを体系化して、他の事柄にも応用できるように概念化することは学習の効率をあげますよね。
最後に
鹿間謙伍くんは私が落ち込んでいるのを見かねて、マーク・トウェインの「人間とは何か」を薦めてくれました。人間の行動はすべて自己満足の結果に過ぎないという老人の話の中に、「お前のやっていることはただの自己満だ」と言われて凹んでいた私を慰めようという鹿間君のわかりづらい優しさが垣間見えてほっこりしました。
これは想像ですが、もしかしたら私と同様の落ち込み方をしたことがあったのかもしれません。直接話をしなくても、こんな風に作品を通して対話することもできるんですね。「芸術はコミュニケーションツールである」という阿部富子先生の言葉を思い出しました。