卒業研究:噴流工学の宇宙への応用

私が卒業した筑波大学附属坂戸高等学校では3年生になると「卒業研究」という必修科目があります。それぞれにテーマを設定し、実験やフィールドワークを行い、最終的に論文にまとめ、提出します。

私のテーマは、みなさんに馴染みがないと思われる宇宙についてです。「TOKで智に挑む」で、宇宙で自由に活動できるスーツを開発することが目標だと書きました。研究の発端はここにあります。

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スーツは人間が着るものですから、宇宙環境での人間の活動について知る必要があります。そこで、宇宙空間で宇宙飛行士が滞在する国際宇宙ステーションという施設で、宇宙飛行士が一体どんな生活をしてるのか覗いてみました。思ったより、不自由のない生活をしていましたが、1つ見逃せない映像を見てしまいました。宇宙での入浴です。

宇宙で風呂に入るという危険性

国際宇宙ステーションでの入浴は、地球のものとはかけ離れています。宇宙の入浴を想像しながら、続きを読んでみてください。

まず、使える水は、35ml!計量カップで実際に量ってみてください。手ですくえる水よりも少ないと思います。身体を洗うことはできません。濡れたタオルで拭いて終了です。頭を洗いますが、タオルで頭を覆いながら洗います。水滴があちこち飛んで行ってしまうからです。もし、機械に水滴が当たって故障したら…

気を付けるのは機械だけではありません。自分の身体も気を付けなければなりません。宇宙では表面張力の影響で、水が皮膚に付着すると、そのままへばりついて、伸びていきます。つまり、顔に水がかかったら、鼻や口が塞がれて、窒息してしまいます。

想像できましたか?宇宙での入浴、恐ろしくないですか?

日本人としてグローバルな視点を持つ

私の研究は、この恐ろしい「宇宙での入浴方法の改善」をテーマに設定しました。たとえ宇宙でも日本人として風呂に入れないのはキツイ。若田光一さんもブログで風呂に入れないことはストレスだと書いていました。

私が考えた入浴方法は、ミストシャワーです。ミストシャワーはその名の通り、ミストを使ったシャワー(東京ガスのミスティみたいなもの)です。ミストシャワーのメリットは、たとえ水が35mlであっても、微細な水滴が継続して放出されるので浴びた感覚が得られること、宇宙飛行士の6割が抱える不眠症の改善に効果があることや、疲労回復・温熱効果があることです。もちろん、入浴本来の目的である衛生面の向上もできます。

しかし、前述したように顔に水がかかると窒息してしまいます。実際、過去に窒息した事例があります。そこで、ミストをうまく制御して、窒息しないようにする必要がありますが、そのためには、ミストがどんな動きをするのか知らなければなりません。宇宙空間におけるミストの挙動(動き)の解析、これが私の研究のボディということです。

無重力でのミストの動き

まず手始めに、ミストは宇宙でどんな力の影響を受けているのか?について実験を行いました。これが分かれば、ミストの動きをある程度予測することができます。みなさんが知っている空気抵抗をメインに実験をしてモデルを立てて、力の実態をつかむことに成功しました。

これでミストの動きは予測できるようになりましたが、ミストが効率よく流れるようにしないと、浴びた感覚がなく、ミストが溜まって窒息してしまう可能性があります。ここで、コアンダ効果という現象を利用します。蛇口から水を出して、スプーンを当てると、スプーンに沿って水が流れますよね?これはコアンダ効果の1つです。これを人間に応用してやります。つまり、人間の身体に沿って、うまく流れるようにしてやるわけです。

この実験で、ミストが噴出されるノズルの角度を5度傾けると、最も効率的にミストが流れることが分かりました。

これらを踏まえて、簡易的なミストシャワーの設計に成功しました。結論として、宇宙空間でのミストの挙動をある程度解析出来た。そして、ミストシャワーは自分が行なった実験・理論を利用することで、宇宙空間に導入できる可能性があることが分かりました。

宇宙に関することなので、宇宙環境に近い状態で実験したいと考えるのは、当然です。そこで、無重力実験にもチャレンジしましたが、これは失敗に終わりました。

その後の話

今後は、1度失敗した無重力実験に再挑戦することを考えていますが、微妙なところです。本格的に宇宙のスーツ開発に挑戦している最中だからです。

しかし、宇宙スーツや宇宙船のエンジンの噴射に関して、この研究は応用できると考えられます。例えば、ミストを電気的に制御して、人工衛星の姿勢をごく微小な単位で変更して、衛星探査の成功率を高めるなどです。どんな計画でいくか、研究の方向性をシフトするのか、思索中です。

今回簡単に研究を書きましたが、実際はこんな数式とにらめっこしながら、実験しています。