英語エマージョン教育の現場から:後編

みなさん、こんにちは。前回に引き続き、西山哲郎です。21世紀教育や英語イマージョン教育に力を入れている大阪の香里ヌヴェール学院小学校で学校長を務めています。

本校では優秀な日本人担任と外国人担任が普段から議論を交わし、よりよい学習機会と環境を子どもたちのために提供しようと切磋琢磨しています。そしてそのことを誇りに感じています。

一方、この学習をより高めていくには何か本校のイマージョン教育の柱に見合うような理念とフレームワークが必要ではないかという思いもありました。そんなときに出会ったのが国際バカロレア(IB)でした。

イマージョン教育を受けた子どもたちの受け皿を

きっかけはオックスフォード大学出版局のセミナーでIBの講演を聞いたことでした。日本では高校生を対象としたディプロマ・プログラム(DP)が注目されていますが、プライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)、そして中学生を対象としたミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)というそれぞれ小学生と中学生を対象とした学習プログラムの設置が可能だということを知りました。

IBは多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する。探求心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。

–文部科学省 国際バカロレアについて 2.国際バカロレアの理念 (1)IBの使命(The IB mission)より-

このIBの使命を目にした時、興奮から身震いしたことを今でも覚えています。それから、いくつかのIB認定校を訪問し、小中一貫を目指したPYP/MYPの導入について学んでいます。

現在、関西で幼稚園でイマージョン教育を受けた子どもたちの受け皿となる小学校はもちろん、中学校も非常に少なく、従来型の小学校や中学校を進まざるを得ないのが現状です。高い英語力や探究心を育む教育をあきらめ、偏差値教育や受験教育に子どもたちを送り込まなければならないという葛藤を多くの保護者や教育関係者の方々が抱かれています。私のもとにも随分相談が寄せられました。

学びの選択肢

そんな現状を打破し、世界で活躍し、社会貢献するグローバルな人材育成に国際バカロレアの学習プログラムのフレームを柱としたPYP/MYPの学校を提供する学校が存在することは一つの解決策に成るのではないかと思うようになりました。なぜなら、子どもたちが個性に応じて選択できる学習プログラムが増えるからです。

高校まで待たなくても、小学校のうちから選べるようになったらいいなと思いませんか?もちろん香里ヌヴェール学院小学校で導入している21世紀教育や英語イマージョン教育も子どもたちにとって何をどう学ぶのかの選択肢の一つです。より質の高い学びを求めるのであれば、日本だけにこだわらず、世界に目を向けてみて下さい。様々な学ぶ機会があり、可能性が大きく広がる多様な選択肢が用意されています。私たち教員は、そして保護者はまずそれを知るべきではないでしょうか。

IBが目指す学習者像をご存知ですか?私はそれに深く共感し、語学力の向上のみならず、理想像に掲げられている学習者をこれから育てていくことがもしできれば、教師冥利に尽きると最近よく妄想します。

・探求する人(Inquirers)

・知識のある人(Knowledgeable)

・考える人(Thinkers)

・コミュニケーションができる人(Communicators)

・信念を持つ人(Principled)

・心を開く人(Open-minded)

・思いやりがある人(Caring)

・挑戦する人(Risk-takers)

・バランスがとれた人(Balanced)

・振り返りができる人(Reflective)

–文部科学省 国際バカロレアについて 2.国際バカロレアの理念 (2)IBの学習者像(The IB Learner Profile)より-

実現するのは簡単ではありませんが、関西にPYP/MYPのプログラムを提供する学校ができることでこの地域の学習の未来は必ず明るくなると私は信じています。

最後に

子どもたちの日々の成長を目の当たりにしていると、私たちが提供する教育内容をもっとアップデートしたいという思いに駆られます。そのためにIBによる教育をもっと学びたい。これが今、私が抱いている思いです。

学校長になり、授業をすることがめっきりなくなりました。そんな実践の場に身を置ける先生方が羨ましく感じる今日このごろです。私は昔から、「そんなことどうせ無理やろ!」と言われるとかえって燃える質です。実践例がなくても、子どもたちの成長や探究に繋がると思えば、何でも試してきた日々を懐かしく思うこともあります。

クマユウがこんなことを言っていました。1988年、日本経済はバブル真っ最中で株価は37,000円台だったがそれも崩壊した。1998年には金融危機が起こり日本経済は悪化した。2008年にはリーマンショックが起きて世界経済は低迷した。誰がそれを予想できていただろうか。時代がどのように変化するかなんて誰にもわからない。だからどんな変化が起きても自ら考え、決断し、行動し、人生を切り開いていかなければいけない。その力を培うのにIBのプログラムは優れている。

そうですね。私は「どうせ」と言われても、何でも試してきたはずでした。それが私らしさでした。私には実現したいことがあります。しかし、それは簡単なことではないようです。しかし、あきらめたくはありません。前例がなくても、子どもたちの成長や探究に繋がるような教育内容をより充実させることを目指して、今後とも行動していきたいと思います。

あきらめなければならないなんて、子どもたち、そして保護者の皆さまに合わせる顔がありません。私の思いに賛同して入学を決めてくださった方々、そしてこれから関わる人々のために、この夢をあきらめたくありません。

一教育者として、私は「日本の大学に行くべきか、海外の大学にいくべきか?」という短絡的な二元論にこだわらず、「日本でも海外でもどこでもたくましく活躍できる!」というタフな子どもたちに育ってほしいと思っています。

小中一貫校でPYP / MYPを設置するのはなかなか簡単なみちのりではありませんが、「とにかくあきらめたくない!」という強い思いから今回筆を執らせて頂きました。