[Little Heroes] 国立台湾体育運動大学 山中鴻齊くん

当ブログにはいくつかのシリーズがありますが、この「Heroes」というシリーズは私がインスピレーションを受けた人物を紹介しています。今回は番外編ということで、私の前任校である筑波大学附属坂戸高等学校の卒業生で、現在、國立臺灣體育運動大學に留学している山中鴻齊くんを紹介します。

再会

先日、休暇を取って台湾に行ってきました。何度行っても飽きない故宮博物館(今期の青銅器の展示は最高にテンションが上がりました)。

いつ行っても1時間以上待たされる鼎泰豊(今回は100分でした)。


普通にマンゴーを買えばよかったと決まって後悔するマンゴーかき氷(滞在中一日はマンゴー祭りと称してマンゴーしか食べない日を設けます)。


台湾はなにかと美味しいし、伝統からポップなものまで文化も豊かな上、日本語で話してくれる人も多く、困ったら漢字で筆談すれば大概のことは何とかなるので、ちょっとしか時間がない時の旅行先として最高です。

さて、今年に入ってFacebookで繋がった山中鴻齊くんが台湾に留学していることを最終日の前日に思い出したんですね。夜も深い時間だったのですが、連絡してみたら「会おうか」って話になり、翌日朝に台北駅の地下街の臭豆腐の匂いが充満するZ8番出口で待ち合せました。

会って知ったのですが、彼の大学は台中にあるそうで、わざわざ台北まで出てきてくれたんだそうです。しかも、手術をして退院したばかりとのこと。返す返す申し訳ない気持ちでいると、「全然いいですよ」とあっけらかんと笑っていました(鴻齊、ごめん……)。

選択

彼は私の学年でもなかったし、授業もとっていなかったので、部活で関わるくらいで、在学中特別関わりが深かったというわけではありません。だから彼が台湾の大学に留学していると知って、正直驚きました。どういういきさつで台湾の大学に留学することになったのでしょうか。

彼は日本人のお父さんと、台湾人のお母さんを持つハーフです。日本語も中国語もネイティブです。これだけでもギフトだなと思うのですが、彼は運を引き付ける力と、そして断片的な知識を有機的に結び付けて自分の考えを表すという点において高い感性も持ち合わせています。

ハーフであること、そして語学力を最大限に活かし、大学を選択しました。ほぼほぼ試験なしで合格できたそうです。これは都内を歩いていた時に、留学フェアを台湾の領事館か何かが開いていて、何の気なしに偶然、会場に入ってみて得た情報だったそうです。

「もしもあの時……」と考えると、今の彼はありませんから、いささか偶然にしては出来すぎですよね。そして、筑坂を卒業した年の9月に国立台湾体育運動大学に入学しました。

決断

台湾の大学は授業料も安く、また寮費も破格。彼は日中の言葉のネイティブですから、通訳を頼まれることも多く、大学でも、ビジネスの場面でも随分重宝されているようです。そして自分の強みを最大限に活かして、台湾のサッカー界に風を興そうとしています。

彼は熱く語ります。台湾の子供たちにサッカーを通して、今まで向き合ったことがない課題を解決する力を養いたい。テストで高い点数をとる勉強方法では、その力は養われない。誰かと一緒にたくさんの選択肢を吟味し、結論を出すことで次のアクションに結び付け、その結果を振り返る過程で人は学ぶのだと。

「あのぅ、鴻齊くん。いいかい。君ね。学校の先生になりませんか?」って私は思わず言ってしまいましたよ。日本の教育界の課題を彼はその知識もなしに、感覚で話すんです。「総合学科だった筑坂が目ざしているところってそこでしょ」とか言いながら、私をまっすぐ見るんです。

勝手なことを言いますが、彼にIBの体育の先生になってほしいなぁ。勝ち負けの向こうにある、概念としての体育。肉体的感覚を伴った概念理解。彼ならうまく言葉にして、うまく子供たちを導いてくれるのではないかと思うのです。

最後に

センセイになって、かれこれ20年になります。それぞれの学校でたくさんの生徒たちと出会ってきました。卒業後、大人になった生徒たちと再会して、話を聞くこともまた愉しみです。山中鴻齊くんとも、まさか台湾でこんなに長い時間、熱く話し合う日が来るなんて思ってみませんでした。でも、そんなことが起こるから人生は面白い。

おかげで小籠包にありつくまでの100分も全然退屈しませんでしたし、淡水まで足を伸ばすこともできました。なんか私も大学生に戻ったようで、だいぶ夜遅くまで語り合いました。

彼が彼の仲間と取り組んでいることは、台湾の子供たちのスポーツをただの勝ち負けを競うものではなく、アイデンティティを確立し、他者を理解し、協働して問題を解決することができる機会を提供することです。それをサッカーを通して実現したいと協力者を探しています。

そうですね。せっかくですから、彼にも語ってもらいましょう!次回は筑波大学附属坂戸高等学校出身、國立臺灣體育運動大學3年、山中鴻齊くんの登場です。どうぞお楽しみに。