皆さん、こんにちは。熊谷優一です。本日は実際にお子さんが国際バカロレア・ディプロマプログラムを学んでいる保護者に協力いただき、親の立場からIBの学習プログラムについてどうみえているのか伺いました。
IBとの出会い
Q:今日は、お時間をいただきありがとうございます。早速ですが、現在、お子さんはどのような環境で学
んでいますか?
A:日本の高校の、国際バカロレアコース(日本語DP)に通っています。
Q:初めて『国際バカロレア』の存在を知ったときのことを教えてください。
A:最初耳にしたのは『国際バカロレア』ではなく『IB』という単語でした。我が子が小学校5年生のとき、ママ友からインター校に行っている18歳のご長男について「いまIBの最終試験で大変なのよ~、ピリピリしてて。」と聞きました。
Q:それを聞いて、IBのことをどう思いましたか?
A:何のことを言っているのか全くわかりませんでした!(笑)。「そうなんですねー」と言いながら、心の中で「それ何?」って。わかったのは、試験で大変なんだ、ということだけ。『IB』も初耳だし、『最終試験』も期末試験みたいなものかと思いました。
Q:それからIBのことは調べましたか?
A:いいえ、そのときは興味がなかったので。ただ、同席していた別のママ友が、 「大変だねえ、うちの子はIBは取ってないけど、でもIBやってると、これからの社会で生きていくにはすごい力になると思うよ」と。なので、もしかしたらインター校で受けられるオプションプログラムなのかな、と推察しました。取る子もいるし、取らない子もいる、でも将来に役立つ。日本の大学でいう教職課程とか資格取得課程みたいな位置づけかと勘違いしていました。
Q:教職課程の様なオプション課程と思っていたんですね。その勘違いにどうやって気づきましたか?
A:当時は海外の日本人学校に通っていたのですが、日本に帰国することを想定して中学・高校探しを始めきに、『国際バカロレア(IB)認定校』というのが目に入って、「あれ?」と。もしかして『IB』とはあのことかな、と思い出しました。インター校のオプション課程じゃなかったんだ、って。
Q:IBと久しぶりの再会ですね(笑)
A:3年ぶりです。その学校のパンフレットを読んだり、このブログ、チノメザメの記事を全部(!)読破したりして、IBの成り立ちや年齢別のプログラムがあること、目指す人間像等がわかってきました。あのとき、ママ友のお子さんがDPの最後にある試験を受けていたらしいこともやっと理解できました。
小・中と通っていた日本人学校も1学年10名足らずの少人数で、一人一人の意見や考えが求められて、自律的に行動する必要がある環境だったし、子どももそれを楽しんでいたので、帰国後もそういう教育を受けられたら面白そうだな、と思いました。知識は思考の土台だから重要だけど、その量と正確さを問われることの多い教育環境に対して、疑問も感じていましたし。でも、わからないこと…言葉もたくさんありました。
日本語DPについて
Q:確かに、IBの言葉ってややこしいですよね。私も最初にマカオでコーディネーター向けのワークショップに参加したときは、開始早々なんのことをいっているのか全くわかりませんでした。保護者の立場では、例えば、どんな言葉がわかりませんでした。
A:まず『英語DP』と『日本語DP』という言葉が謎でした。
Q:IBのディプロマプログラムで指導・学習する主な言語のことですね。
A:はい。IBは基本的には英語・フランス語・スペイン語のプログラムということ、ここ数年で、『日本語DP』が可能になったとはいえ、6科目のうち2科目は、上記の言語で受ける必要があると知りました。 それでやっと、日本の高校のIBコースであっても、『英語DP』か『日本語DP』実施校かで、受験時に求められる語学レベルに違いがあることが理解できました。それで、子どもは当時は英検2級だったので、『英語DP』校は厳しいけれど、『日本語DP』ならいけるかも!となりました。
Q:他にもわからなかった言葉はありませんでしたか?
A:『一条校』ですね。教育関係者の方にとっては知っていて当然かもしれませんが、『学校教育法第一条に定められた学校』の略、いわゆる国公私立の日本の小・中・高もこれに含まれるというのは初めて知りました。
Q:一条校…確かに。学校教育業界の専門用語ですよね。今ではよく使いますが、IBに出会っていなかったらここまで使わなかったと思います(笑)。
A:学校パンフレットでも文部科学省サイトでも、普通に使われているんです。「いやいや、そんなの知らないよ!」って思いました。それがわかって初めて、「一条校のIBコースなら日本の高卒資格とIBDPの両方が取れる!」と書かれている意味を理解しました。
Q:一条校でのIB日本語DPを選ぶにあたり、不安はありましたか?
A:自分の受けてきた教育がベースにあるので、想像もしてこなかったシステムの存在を受け入れ、理解できるまでは不安もありました。でも最終的に選ぶときには不安はなかったです。
Q:それはなぜでしょう?
A: 国内外で転勤が続く中で、自分の中の『普通』の概念が崩れたというのは大きかったですね。例えば、私自身は「帰国子女」を『普通』とは思ってこなかったけど、いま私の周りにいる日本人学校の子どもたちは皆、帰国子女になることが普通、と気づいたとき。さらに「帰国子女なら、普通に英語とかできるの?」と聞かれることも多かったのですが、英語圏の国でもなく、日本人学校だったので、自然に身にはつかないよ、と思ったとき。『普通』ってすごく曖昧で主観的な概念だな、と。
そういう経験を重ねる中で、周囲とのチューニングはしつつも、誰かの『普通』に支配されない基準で判断したほうが、後悔しないし楽しい、と思うようになりました。なので、IBについても、「IBの学びは人生楽しくなりそう!」「自分が楽しそうと感じたのなら、その直感に従おう!」という気持ちが、最後は勝ちました(笑)
進路について
Q:高校卒業後の進路について、不安はありましたか?
A:全くありませんでした。かつてママ友が言っていたように、IBでの学びは『これからの社会で生きていくときにすごい力』になると思ったので、IBを評価してくれる大学に行けばよいと思いました。
もちろん、希望のスコアが取れるのかは未知数ですが、どうしても日本の大学に行きたいのであれば、IBのCAS活動やEE、一条校の高卒資格と英語資格があれば総合型入試の多くは受験できます。強みにすらなると思います。あれだけ自分で学び、考え、そしてそれを表せる子たちなので。
Q:共通テストを利用しての受験についてはどうお考えですか?
A:高校に入った頃に、希望大学の入試制度を確認して、共通テスト対策をするかどうか検討し、結果、「共通テストは受けない」という決断をしました。IBに集中したい気持ちと迷っていたようなので、よくわからないまま心にひっかかっているより、確認してよかったかな、と思います。
もし希望の大学が共通テストを課している(たとえIB入試でも、課しているケースがある)場合は、時間、体力、IBとの両立等を考慮して、科目選択を含めて長期スパンで考えたほうがよいと思います。
DP Year2になるとますます進路について考えたり、話し合う時間が取りにくくなって、あっという間に出願時期が来てしまいます。経済的な問題も関係してきますし、時間の余裕があるうちにちゃんと話し合いたいですね。
Q:国内大学への進学が希望ですか?
A:深く学ぶには母語のほうが容易と感じるから、という考えで国内大学を志望しています。欧米で生活していましたので、日本の学校で学びたいという気持ちもあるようです。ただ、大学在学中の留学は検討していますし、急に何かにときめいて海外志望(というより、行きたい大学がたまたま海外)になる可能性はありますが……。
Q:その他、大学受験について不安はありますか?
A:総合型入試とIB最終試験の日程が重なるかもしれないことと、その前の出願時期が最終試験準備と重なることです。
国内大学の総合型入試は、出願書類(志望理由書や活動報告書、レポートなど)が合格のカギを握るため、作成に労力と時間がかかりそうです。また、その出願期間は、IB最終試験直前の9月~10月に集中しています。最終試験期間中や前後に入試があるケースもありますし、計画的準備…大変そうです。
今の大学受験システムや提出書類は、保護者世代からは想像もつかない複雑さですよね。これはIB生に限らないことですが、システムや手続については、保護者の共通理解・支援が重要と感じています。海外から国内大学を受験される場合、保護者の方は、必要書類を期日までに正しい書類形式で準備することに相当神経を使われると思いますが、日本国内でもそうかもしれません。
IB全体と魅力について
Q:日本でのIBの受け止められ方について、どう思いますか?
A:まず。国際バカロレア=英語、海外大学、と言われることが多いことが不思議だなあ、と。DPによって世界中の大学を受験する際に持ち運びしやすい成績・評価が得られ、選択肢は広がるわけですが、必ずしもみんな海外大学志望とは限りませんし。
またそのイメージだと、海外大学に興味のない子はIBにも興味を持ちにくいですよね。もしくは、英語好きという理由で選んだ結果、「イメージと違う」となってしまったり。IBで満喫できる、『学び』の本質や、楽しさ、魅力がもっと発信されたら、見られ方も変わるのでしょうか…
Q:IBの魅力!そこを伝えてください!
A:IBDPを取得したばかりのお子さんと話したときに「IBは物事を深く考えるようになる。大変だけど、楽しいよ。やってよかった。」と言っていて、我が子は、その目や語り方で、彼の学び方にとても興味を持ったようです。なんていうか…落ち着いているのに目がキラキラしていたんですよ、冗談ではなくて。18歳が小学生に、1対1で、キラキラした目で誠実に語りかける!…これは伝わりますよね。理屈じゃない。なので、IB経験者が発信してくれるのが、子どもたちにはわかりやすいかもしれません。でも私も含めて多くの人が、IBの抽象的な説明を理解できるようになるには、もっと具体例が必要と思います。
Q:保護者がIBを理解できるようになる具体例とは、例えばどんなものでしょうか?
A:学び方ややっていることの具体的イメージが持ちにくいんです。得体が知れない。楽しそうな学びだけど、何やってるのか知りたいな、といつも思っています。
例えば、普段の授業のプレゼン資料とか、EE(課題論文)のテーマ一覧なんてあったら、IB生たちがどんな日々を送っているのか、どんなことを学びの集大成としているのか、イメージできそうです。もし可能であれば、2年かけて、1人の書くレポートがどう変化していったのかとかを見てみたいです。
最終試験の過去問も、興味がある人は検索すると思いますが、興味の入り口には置かれていません。IBを選ぶ前に知る機会があれば、もっと興味を持ってくれる保護者や生徒もいるのではないかと思います。とにかく得体が知れないので(笑)。
難しい書籍や海外論文も読んでいたり、英語もうまくなっています。でもそういう表面的なことではなくて、知識も語学も学びの道具、記憶で点を取ることは目的ではない、という意思をいつも感じます。
一見、大学のゼミや卒業論文みたいですが…私の目からはもっと自律していると感じます。少なくとも私の高校時代、いや大学時代でもあんな資料は作れないし、あのレベルの文章は書けない。ほんと、毎日何をやっているんでしょうね?(笑)
Q:他に不明な点や困った点はありましたか?
A:IB用語やスケジュール感がわからないです。「Mockまであと2か月しかない!」「Paper2はいいんだけど、3が…」と言われても、意味がわからない。何をやるのか、どの位の負荷がかかるのか、いつ忙しいのか、重要なのか。共感できないのでぼんやりとした返事になりがちです。
EE、TOK、CASは、いまだに具体的日程や内容がよくわかりません。Mock、PG、IA、IE、Paper1/2/3…わからなすぎて、最近は「ま、いいか」となり、シンプルに応援する気持ちを心がけています。
Q:最後に、お子さんがIB生となってよかったと思いますか?
A:我が家にとっては、とてもよい出会いでしたし、IB生となってよかったと思っています。そのうえで思うのは、IBがよいかどうかではなく、子ども自身がメリット・デメリットを理解して自ら道を選択したかが、その選択を良かったと感じることにつながる、ということです。
なんとなくレールに乗っかって、誰かの言うことを聞いていたら安泰でいられる時代ではなくなってきた今、子どもたちが周りの人たちと一緒に豊かな人生を送っていけるよう、自分で選択肢を作り出せて、選べる力をつけていってほしいと思いますし、IBはその力がつく教育プログラムの一つだと思います。
多くの方にIBの学びをご理解いただけるよう、熊谷先生はじめ、みなさまのますますのご活躍をお祈りしております。
Q:本日は長時間に渡り、ありがとうございました。私たち教育関係者が何を説明できていないのか、保護者やIBを選択しようとしている学習者のどこに寄り添わなければいけないのか、再確認することができました。