<再掲載>オトナこそ、今IBを学びたい

本エントリーは2018年9月28日にリリースしました。手違いで非公開設定になっており、この度再掲することにしました。本エントリーに登場する猪口さんは2024年現在、台湾のプロ女子サッカーチームの監督をされています(ちなみに以下の記事にあるようなことをアレンジしたのは本ブログの運営を担当している彼です)。

https://www.roc-taiwan.org/jposa_ja/post/41854.html

みなさん、こんにちは。熊谷優一です。私は現在、2019年4月に開校する大阪市立水都国際中学校・高等学校の国際バカロレアコーディネーターをしています。水都国際の運営は世界中にネットワークを持つ大阪YMCAが担います。公設民営校の利点を活かして様々なプログラムを提供できるように、大阪YMCAの一員として水都国際の開設準備を進めています。

そして、この度発足した大阪YMCA総合研究所の主任研究員として、大阪YMCA内の各事業をつなげ、プログラム開発を担当することになりました。大阪YMCAはインターナショナルスクールでPYPを実施していますが、MYP、DPも導入する予定です。これまでもそこは水都国際開設チームとタッグを組んで準備に当たってきたのですが、それ以外の学校事業やウェルネス事業などとも横断的プログラムを提案するのが私のミッションです。

そして、第一回の会合で「日本人のスポーツに対する意識を変えたい」という熱い漢に私は出会ってしまったのです……(行間を読んでください笑)。

Key Concept

彼の名は、猪口武志。真っ黒に日焼けしたサッカーのコーチです。会合が始まる前に私のオフィスに顔を出した彼が、挨拶もほどほどに、私に放った一言を私は今でも強烈に覚えています。

「TOKを勉強したら、サッカーがもっと面白くなったんです」

圧が強くて、まっすぐな感じで、純粋な興味関心に満ちているその丸い目をそらすように、「TOK勉強されてるんですね」とだけ私は言いました。が、会合まで少し時間があったので、ちょっとだけその話を突っ込んで聞いてみたくなり、どういうことなのかと尋ねました。

サッカーというスポーツをひとつのシステムととらえたとき、そのシステムの中で起こるコミュニケーションは、サッカーというシステム固有である。他のスポーツでは他のスポーツのシステムがあり、それぞれにコミュニケーションスタイルは異なっている。

なんだかややこしいことを言っているなと思いつつ、私はMYPのキーコンセプトのことを思い出していました。MYP体育では、「システム」「変化」「コミュニケーション」を基本概念にカリキュラムが組み立てられています。

彼はもしかしたらこの基本概念のことを話そうとしているのかもしれないと思いつつ、会合の後にまた話しましょうということにしました。

Square

大阪YMCA総合研究所の第一回の会合では、猪口さんと私とでプログラム開発のチームを作ることになりました。会合自体も結構長くやったのですが、終わってさっきの続きをということになり、そこからまた私たちは話し込むことになります。

ヤバい気はしていたんです。出会ったら最後、魂吸い取られぞ……っていう。猪口さんはもう溢れる情熱と思いを全身全霊でぶつけてくるんです。もう私は逃げられない。覚悟を決めるしかないと、私は腹を括りました……というのは、あまりにも私にとって虫がいい話ですね。実際は、私が聞きたいことが多かったので、質問攻めだったと思います。

私は彼に言いました。日本の教育の最大の特徴のひとつは小学校1年生から高校3年生まで体育という科目が必修科目として位置づけられていることだと。体育は自分が自分の体とどう付き合っていくかと学ぶ科目です。生きることそのことに直結する科目です。その科目が日本の教育の中心に据えられている。

日本の体育ではありとあらゆる動きと種目を、段階を踏んで経験します。だからそれが卒業後、社会人になっても経験したことがないスポーツに挑戦し、コミュニティーに参加することを可能にしているのではないかと私は思っていました。

しかし、猪口さんは疑問を呈します。だったらスポーツの競技人口は四角、もしくは末広がりの台形を描いていなければいけない。あるスポーツを体験した人が年齢を重ねるにつれ、どんどん減っていく。このピラミッドでいいのだろうか。

勝ち負けを超えたところに

勝つことを目指すスポーツがあります。しかし、勝たなければ、勝つことを目指さなければスポーツをやる意味はないというわけではありません。いろんな楽しみ方があっていい。せっかくスポーツを楽しむことを憶えたのだから、そのスポーツをそれぞれのやり方で楽しみ続けてほしい。それが猪口さんの思いです。

子供たちのスポーツの大会を見ると、監督やコーチも、観客も選手たちにとても厳しい言葉をかけているのを耳にします。でも、勝つこと、負けることを超えたところに、未知の課題を協働して自ら解決する力を養うこと、自分自身の体を使って自分という人間のアイデンティティを確立すること、計画・試行・振り返りをする過程で次のアクションにつなげていくというサイクル、などなど人生をよりよく生きていくための肉体感覚を伴った学びの機会はスポーツの中にあふれています。

私には猪口さんが訴えようとしていたことは、私自身の教育者としての問題意識と重なって聞こえました。

最後に

猪口さんの思いは本当に熱いです。彼と同じように思っている人が全国にいるはずです。その思いを共にする人が点在するのではなく、線でつながれば、ムーブメントを起こせるのではないでしょうか。

猪口さんとは10月に一緒に台湾に行きます。台湾で会わせたい人たちがます(思い当たる人がいますよね?)。彼らも新たなプロジェクトに取り組んでいて、サッカーを通して台湾の子供たちに夢をと張り切っています。提携することができれば、日本だけでなく、台湾だけでなく、その活動を広げることができるのではないかと私は希望を持っています。

猪口さんにはせっかくなので、サッカーやスポーツという視点から教育について、次回語ってもらおうと思います。それは3日後、熱い漢の登場をご期待ください。