このHeroesというシリーズでは様々なフィールドで活躍するオトナを紹介しています。これまで、ベトナムでレストランを経営する白井尋さん、京象嵌の若手職人の中嶋龍司、漢字文学者の故・白川静さん、日本文学者のドナルド・キーンさん、筑波大学大学院教育研究科客員教授のキャロル・犬飼・ディクソン先生、中国茶研究家の王静先生を紹介してきました。
こんにちは。熊谷優一です。今回は前回に引き続き、私の人生に最も影響を与えた人物を取り上げようと思います。新春初夢特集でも触れた、アンジェラ・ランズベリーという女優さんです。
なんとも単純な話ですが、私が英語力とリサーチスキルを手に入れることができたのは、彼女のことが知りたいというただそのモチベーションの産物です。
Broadway Melody
アンジェラ・ランズベリーは1944年に映画、『ガス燈』でデビューし、3度アカデミー賞にノミネートされますが、なかなか映画界では欲しい役が回ってこなかったそうです。しかし、1960年代の活躍の場をブロードウェイに求めると、『メイム』、『Dear World』、『ジプシー』、『スウィニー・トッド』といったミュージカルに主演し、トニー賞主演女優賞を獲得しました。
私が高校生の時は、図書館でいろんな資料を検索するんですが、ストーリーの全容もアンジェラさんがどんな演技をして、批評家にどう評価されたのかは見えませんでした。今やインターネットで当時の情報を得ることができますし、Youtubeで動画を検索すれば、いろんなレア映像を見ることができますしね。恥ずかしい話、今も毎日「Angela Lansbury」って検索してます(笑)。
さて、彼女がブロードウェイで活躍したと知って、NYに行かないわけにはいきません。大学生の時、貯金をはたいで、昼も夜もミュージカルやストレートプレイを見まくりました。空いている時間は図書館でアンジェラさんに関する資料を読んだり、古本屋でアンジェラさんが出演した作品のパンフレットを探したりしました。
見つかったときはテンションが上がりましたね。私にとって、英語を学ぶことも、リサーチすることも、全てアンジェラさんに通じていました。
Broadway Baby
アンジェラさんは1996年に12年続いた『ジェシカおばさんの事件簿』というテレビドラマの放送が終わると、再び舞台に戻ってきます。『Deuce(2007)』『Blithe Spirit(2009)』『A Little Night Music(2009)』『The Best Man(2012)』『Driving Miss Daisy(2013)』『Blithe Spirit(2014)』と今日まで7本の作品に出演しています。
そのうち私は『Deuce』と『A Little Night Music』、そして『The Best Man(2012)』をブロードウェイで観劇しました。2013年にはオーストラリアを『Driving Miss Daisy』でツアーしています。2014年はイギリスで『Blithe Spirit』に出演し、ローレンス・オリビエ賞を受賞後、2015年にかけて北米ツアーを行いました。
2015年時点で、アンジェラさんは90歳ですからね。週6日、昼夜公演を8回やるっていうんですから、頭が下がります。どんだけ自己管理しているんだ!去年は3本映画に出ていますしね。年齢を言い訳にしてはいけないと彼女を見ていていつも思います。
でも、舞台に立って、生の観客の反応の中で演技をするっていうのが本当に好きなんでしょうね。きっとしんどいときもあると思うんでけど、舞台に立っている間、それはそれは幸せな気持ちなんだと思うんです。「好きなことをやり続けたい。だから引退なんて考えていない」って彼女は言います。
Broadway Nut
皆さんは、リンカーンセンターにあるニューヨーク図書館で記録用に録画された過去のブロードウェイの演劇やミュージカル作品を見ることができるのをご存知ですか?調べて調べて調べてたどり着いた情報です。
2009年にアンジェラさんが出演して5度目のトニー賞を受賞した『Blithe Spirit』がどうしても見たかったんですね。どうしても。あと、Bebe Neuwirthがヴェルマを演じた『Chicago』のリバイバルも。
で、リンカーンセンターの図書館でカードを作って、毎日通いました。記録されているものばかりではないのですが、上記の作品はもちろん見ることができました。NYに行くときは舞台を見ていない時間はずっとここに入り浸っています(笑)。
最後に
ブロードウェイで様々なミュージカルや演劇作品を見ているうちに、自分も作りたくなってですね。初任校で演劇部を立ち上げ、2本ミュージカルを作りました。
楽譜も読めないし、書けないし、作曲をしたこともありませんでしたが、やってみればやれるもんですね。私はいつしか、歌を作ること、その歌をもとにストーリーを作ることに没頭していきました。これも全てきっかけはアンジェラさんでした。
興味を持ったらとことん調べ尽くす。納得行くまで学びきる。そんなマインドセットはアンジェラさんに育ててもらいました。友人から引かれようが、好きなものは好きなのでね。やめろと言われてやめられるなら夢中とは言いませんからね。
本当に興味を持っているなら、何を失ってもやりとげる、私が生徒に言いたいことはただ一言。「Go for it!」です。一回学びきってみる経験をしてみると、学ぶことが楽しくて仕方がなくなること間違いなし!子どもたちにそんな境地に達してほしいな。
今、アンジェラさんの舞台作品は2作DVD化されています。リージョンをアメリカのものにする必要がありますが、1981年に録画された「スウィニー・トッド」と何年か前にオーストラリアをツアーした「ドライビング・ミス・デイジー」です。もしよかったら見てみてください。