街角TOK:ウソとホント

「ウソのようにホントを言って、ホントのようにウソをつく。そんな大人に私はなりたい。」

みなさん、こんにちは。熊谷優一です。

みなさん思い当たることはありませんか?街角は様々な問いで溢れています。本屋さんに並ぶ書籍、アーケード内で聞こえてくる音楽、やがて暗黙の秩序が生じる無秩序な人の流れ、商店街で交わされる一見無意味な会話。普段はなんとも思わないことに、ふと気がついてしまう時が。

この「街角TOK」のシリーズでは、そんな些細な疑問を取り上げていこうと思っています。

ウソとホント

うその中にうそを探すな

ほんとの中にうそを探せ

ほんとの中にほんとを探すな

うその中にほんとを探せ

「谷川俊太郎詩集」谷川俊太郎(ハルキ文庫、1998年)より

私が宮城県の高校教員になって初めて勤めた学校は、いわゆる生徒指導が困難だと言われる学校です。家庭環境も含めて生徒たちは多様な課題を抱えていました。教員としての情熱を履き違えていた私は、どうにかして彼らを矯正しようとしていたのではないかと、今振り返ってみてゾッとしています。

そんな私に1つの視点を与えてくれたのが、谷川俊太郎の「うそとほんと」という詩の一節でした。当時の私の生徒たちの多くはメタ認知が非常に弱く、自分を客観視するスキルが未発達なため、一時的な衝動的感情に支配される傾向がありました。

一旦、その感情に支配されてしまうと、自分自身をコントロールできないため、破壊的な言動をすることが多く、生徒たち自身の社会的評価を下げてしまいます。そして、冷静になった後で、そのことをひどく後悔するという負のスパイラルに陥り、更に自己放棄的な態度で自らの人生を否定的に見るようになります。

自分はダメじゃない

高校生とはいえ、その情緒は発達途上。そんな彼らをどう支援できるのか、私はその取っ掛かりとして、カウンセリングを選びました。公立の学校の教員は色々言われることはありますが、初任者研修など法定研修はもとより、様々な研修機会が豊富であったので、私は中でもカウセリングの研修を多く受講し、生徒個々人の学ぶことそのことをコーディネートできるような対話を通した学習カウンセリングができるようにと勉強することにしました。

生徒がウソをつく時、それはそれとして、ウソをつかなければならないその状況とその真意を対話を通して生徒自身に気づかせる。そこにホントの課題が潜んでいます。説教にならないように気をつけながら、とにかく生徒に形容詞で話させるように促しました。生徒たちは他人から自分がどう思われるのかに酷く怯えているようでした。

他人から自分が否定される前に自分自身で否定する。自己否定感満載の彼らは自分を肯定する勇気がない。そこが著しく未発達でした。褒めすぎない程度に、まずは自分に自信を持てるようなフィードバックと否定形で話をしないことを心がけました。破壊的行動をとってしまうのは、結局自分が自分でダメな人間ではないって主張のように見えました。

シアターラーニング

そして、自分自身では自分自身の言葉を出せないのなら、架空の状況や人物を設定し、誰かになりきって自分の考えを表現したり、会話文が多いテキストを朗読劇のように読んでみたり、ホームルームでも教科指導でも演劇的手法を取るようになりました。

次第に生徒たちは言葉で遊ぶようになりました。ホームルームは大喜利のようになりましたし、教科書を持ってくることもままならなかった彼らが、教科書から何かを読み取ろうとするようになりました。問題行動がなくなったわけではありませんが、生徒たちの発言には工夫が感じられ、それにフィードバックするうちに、教室は生徒が自分自身でいられる環境になっていきました。

文化祭では、授業で読んだ「ロミオとジュリエット」の物語を牧師とジュリエットの乳母の策略だったというパロディに仕立てて、上演しました。「あの子達が堂々と舞台に立ち、爆笑をかっさらってる!」と舞台裏で一人号泣していました(笑)。

ほんの少しだけ自信が持てるようになった彼らが周りの生徒達に与えたインパクトも大きかったようです。「来年は自分もやりたい!」と私のところに来た生徒たちがいました。希望を持つことも勇気なのかなと感じました。

最後に

振り返ってみると、ありのままの自分と向き合う勇気を持つことが私にとって学びの過程だったように思います。あれはようやく高校3年生になってからでした。古文の時間に「徒然草」の「世に語り伝ふること」という段を読んでいたときのことです。

ウソに真実味を与えるためには、そのウソを聞いた人が自ら想像力を発揮できるように所々をぼかして、よく知らないフリをしつつも要点をおさえて、記述するべきである。

先生に、「この段から上手なウソのつきかたを学んだ」って言いました。そしたらその時のテストで先生が私の答案にこのように書いて返却してくれました。

なかなか叙述に鋭さがある。感心した。(ついでに)最近の君の授業に臨む姿勢は学年当初のものではない。鋭さが失われてはもったいない。自分の持ち味を大切にしなさい。

今となってはその先生の名前も顔も忘れてしまいましたが、その答案用紙は今もとってあります。案外、可愛いところあるんですよ、クマユウ(笑)。

さて、次回は私にとって最も古い友人が当ブログの300回目のエントリーリリースに華を添えてくれます。彼もなかなかのツワモノです。どうぞお楽しみに!