昨日の宮城県南三陸町に続き、今日は私の故郷、気仙沼市で『Most Likely to Succeed』というこれからの教育を題材にしたドキュメンタリー映画を上映します。もはや時代は地域格差が学習格差を生む時代ではありません。
どこで学んでも、私たちはよりよく学ぶ方法が見つけられます。インターネットがそれを可能にしてくれています。でも、有効に活用して学習の質を高めるためにはどうしたらいいのか、世の中にごまんとあるチャンスを手にするためにはどうすればいいのか、見当がつかないという声も聞きます。
以前書いたふるさとの子供たちへ vol.1、ふるさとの子供たちへ vol.2を読んでみてください。もしかしたら参考になるかもしれません。
真夜中の招待状
みなさん、こんにちは。熊谷優一です。あれは、昨年のことでした。夜中に一通のメールが私に届きます。それはオランダ、ハーグにある国際バカロレア機構のカリキュラム・マネージャーからでした。
よく読んでみると、「Programme Standards and Practices(プログラムの基準と実践要綱)」という文書の改訂プロジェクトへの招待状でした。この文書は、国際バカロレアの教育プログラムを実施しようとしている学校が認定申請をするとき、すでに認定された学校がプログラムの実践をし、認定5年後の再評価を受けるときの根拠となる、プログラム実施の根幹にかかわる最も重要な文書です。
「一体なんで選ばれたんだ?」と思いつつ、こんな機会は人生で二度訪れないと思い、そのプロジェクトに参加することにしました。約5,000ある世界中のIB認定校から招待を受けたのはたったの4人。そのうちの1人と知ったとき、さすがに足が震えました。しかも英語ネイティブでないのは私だけ……。
でも、そんな私が選ばれたのにはわけがありました。招待してくれたカリキュラム・マネージャーはマルチリンガル(多言語)な状況でコーディネーターをしている私の経験を通して、改訂される文書の見せ方を話し合う席で、示唆を与えたかったのです。
この顛末はIBOからの招待状 -前編-、IBOからの招待状 -後編-で取り上げていますので、よかったらご覧下さい。
世界を変える影響力を持った一個人
この改訂プロジェクトに参加して、私は自分自身が「世界を変える影響力を持った一個人である」ことを実感しました。「何をバカなことを言っているんだ」と嗤われそうですね(笑)。
でも、大げさでもなんでもなくて、自分が何ともないと思っていた当然のことが、誰かにとっては今まで気が付かなった価値のある情報だったりします。議論の最中、私が何気なく言ったことが、一瞬のうちに文書の形式を変えることに繋がりました。
どういうことか、少しだけ説明しますね。国際バカロレアの教育プログラムは現在、世界約140か国、5,000以上の学校で実施されています。これまで英語、スペイン語、フランス語で行われてきましたが、近年、日本語、中国語、アラビア語、インドネシア語などの言語でも行われるようになってきました。
したがって、プログラム実施に関する文書はそれぞれの言語に翻訳されます。招待を受けた当時の勤務校、筑波大学附属坂戸高校では、英語ネイティブの先生は英語の文書、日本人の先生は日本語で文書を読んでいました。コーディネーターの私は英語、日本語どちらでも文書を読みます
が、日本語の文書には英語にはない表記があることに気づきました。日本語の文書は様々な括弧で表示されているんですね。英語にはそれがない。これがもし、中国語でも、インドネシア語でもそれぞれ表記に特性があったとしたら、コーディネーターの先生は会議で見てほしい項目を指示するときに混乱しないだろうか、と思ったんです。
だから、表記方法は最もシンプルに大項目はローマ数字で、小項目はアラビア数字でどの言語の文書でも統一してはどうですかと提案しました。また、「CAP」とか「LA」とか、各項目はその頭文字で表記されているところもありましたが、それがそれぞれの文化で意味するところが違う場合、別の意味で捉えられたり、一回別のことを連想してから理解することになるのは煩わしいので、単純化してほしいとお願いしました。
そしたら、瞬く間に文書の表示が変わったんですね。自分の発言がこんなにも評価されると思っていませんでしたし、世界中のマルチリンガル(多言語)の環境でコーディネーターをしている人に有益な提案だったと褒められました。
最後に
このプロジェクトに参加する以前と以後では、私の世の中の捉え方はかなり違います。すべてのことはジブンゴトになり、たかが私の考えることでも、誰かの役に立つかもしれないと思うようになりました。
受け身の学びではなく、何かほんの些細なことであっても、自分達の働きかけによって世の中を1ミリでも変える経験をすることができたら、子どもたちはきっと、自分たちは世界を変える影響力を持った一個人であると自覚して実社会に入っていくと思うんですね。それを知っているのと、知らないまま社会にいることは全然意味が違うと思いませんか?
経済産業省が『未来の教室とEdTech研究会第一次提言』で「50センチ革命」なんて言っているように、社会を根本から変革させるような大規模な変化ではなく、私たちの身の回りをより良くするための変化に寄与できる「チェンジメーカー」を育てることが教育のテーマになりうることを示しています。
子どもたちが、「自分って!」ってわかる瞬間に立ち会いたいなぁ。それは冥利ですよね。今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。次回は当ブログでもお馴染み、浅見昌弘くんが新たなプロジェクト始動について語ってくれます。どうぞお楽しみに。