21世紀を学ぶ君へ:読書のススメ

みなさん、こんにちは。熊谷優一です。

街角TOKシリーズ最新作は、熊谷が聞いた古典の一節に始まります。

前回は「論語」だ「易経」、「枕草子」だと、古典を丁寧に自分の人生に照らし合わせて読むことによって、様々な発見があると書きました。実際、何千年も前に書かれていることの中に、目まぐるしく変化する現代社会に通ずる人間の本質が書かれているように思えます。また、果たして科学技術が進歩したように人間は進化しているのだろうかと考えたりします。

さて、「街角TOK」シリーズでなどで度々、本を取り上げてきました。「直観を磨くもの」を紹介したときは、全国から「すぐネットで買おうと思ったら、売り切れていて買えない」という声をたくさんいただきました。絶版になっているルネ・デュボスの「人間であるために」も古本で購入された方も何人かいらっしゃったようで、恐縮しています。

最近では、「時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」」という本を生徒と議論したことを「犬は吠えるがキャラバンは進む」で取り上げましたが、「これまでの中でこの本は一番難しくて、なかなか読み進まない」いとメールをいただきました。

確かに、相対性理論、宇宙論、熱力学、量子論などといったことについて書かれているので、文系思考の私にとっても理解しきれないことはたくさんありました。が、言語を専門とする私ならではの読み方をしました。どういうことかというと、言語は時間をどう表しているのか、という点から私はあの本を読むことができたのです。

そういう、誰かの読み方に合わせて読むのではなく、自分なりの読み方をしてもいいんだということを信じられるかは、その人がどんな読書体験をしてきたかよるんだと思うのです。私が自分なりの読み方をしてもいいんだと実感できたのは、ほぼ文盲だった祖母のおかげです。今となっては、彼女が私に与えてくれた最大の財産だと思っています。こちらで詳しく書いているので、もしよかったらご覧ください。

街角の本屋さんはかつて知識の宝庫でした。そんな本屋さんがどんどん店をたたんでいます。

でも、みんながみんな、本読むことについて私のようなトレーニング(?)を受けてきたとは思えませんし、本を読むこと自体習慣がないという人も少なくないのではないでしょうか?現代は本を読まなくても「だいたい」を理解できる情報に満ち溢れていますもんね。でも、その情報について深みと広がりをもつためにはやっぱり文献にあたるという作業は必要ではないかと思います。

「じゃあ、読書習慣がなければどうりゃいいんだ!」って話ですよね。国際バカロレアに興味は持っているものの、その知識体系のあまりの幅広さに圧倒され、「自分には無理だ」と判断される先生方からこれまでたくさん相談を受けてきました。特に「知の理論」の授業担当者に指名されたものの、「これまで本を読んでこなかったら自分には知識がない。本を読まなくてはいけないのは知っているが、まったく追いつかない」と自分自身にショックを受けているようでした。

でもね、「ああ、もう十分だ!」なんて境地には決して至らないのですよ。私も先人たちに比べて全然に読めておらず知識の少なさに愕然とすることばかりです。あとでまたレポートしますが、「人間はなぜ戦争をするのか」という本を生徒たちと議論していた時、生徒たちは15、16歳でこの本を読んだ経験からどんどん読書体験を広げていくけれど、彼らの3倍生きている私は今生が終わるまでにどれだけ知識を得ることができるだろうかと本気で焦っています。そして、生徒たちのこれからを思って悔しくなりました(笑)。

しかし、私は思うのです。大人は子どもたちにとって失敗のロールモデルでいいと。先生は学習者として生徒たちに最高のロールモデルです。どんな風に苦労して学んでいるのか。一度学んでからといって、全て理解できるというわけではありません。理解できないことだってたくさんあります。でも、先生のその姿を生徒が見ることによって学ぶことについて、生徒たち自身が学ぶことができます。読書習慣がなく、本を読むことが苦手だと思っている先生方、その姿を生徒さんたちに見せてあげてください。そこから皆さんの生徒は有形無形の学びを得ることでしょう。

そんな先生たちに、読書習慣を形成するきっかけとしておすすめするのが対談集です。対談集は話し言葉で書かれていますから、難解な学術書を読むよりは格段にハードルが低いです。私も結構読みます。そして、何よりも参考になるのが、どんな知識について話しているのかよりも、どんな切り口で質問し、どんな切り口で受け答えしているのかという点です。これは、授業で生徒たちにどう問いかけるのかのヒントになります。

そういう目的でよむのであれば、この本をお勧めします。何度かこのブログでも紹介しましたが、海猫沢めろんの「明日、機械がヒトになる」という本です。「道徳って何のためにあるんだろう」「道具は思考をどの程度規定するのか」「意味と価値は予め存在するのか、それとも後付けされるものか」などなど、AIやVR、SRなどの最新テクノロジーの専門家たちへのインタビューをもとに書かれたこの作品から、たくさん質問が生まれてきます。

この本は中高生のみなさんにとっても読みやすいと思います。海猫沢めろんさんのインタビューの仕方も先生として授業で生徒に質問するときに参考にもなりました。「対話を通した主体的な学び」のヒントを見つけたと思いました。教える方も、学ぶ方も、これからの学び方を理解するのにも適していると感じています。

もうちょっと楽しい感じで始めたいなと思ったら、「ご本出しておきますね?」という本はいかがでしょうか。以前テレビ東京で放送されていた同名の番組でオードリの若林さんが小説家をゲストにトークを繰り広げるとてもおもしろい番組を本にまとめたものです。私は録画したものをしょっちゅう見返しては、村田沙耶香さんの回で大爆笑しています。海猫沢めろんさんを知ったのもこの番組で、考えていることが独創的で面白いと思って「明日、機械がヒトになる」を書店で手に取りました。

読んだ本についての話は人それぞれ本当に多様で、それを聞くだけで楽しい気持ちになります。私は本を読むことによって自分が潜在的に思っていたことを言語化されているのを読んだとき、テンションが上がります。そう!これを言いたかったんだって。どちらかというと、頭の中を整理するために本という道具と読書という方法が必要なのかなと思っています。

いつかみなさんで、オンライン読書会をやってみましょうか?ちょっと考えてみます。