街角TOK:戦争を望む者はいない

街角は様々な問いで溢れています。思い当たることはありませんか?本屋さんに並ぶ書籍、アーケード内で聞こえてくる音楽、やがて暗黙の秩序が生じる無秩序な人の流れ、商店街で交わされる一見無
意味な会話。普段はなんとも思わないことに、ふと気がついてしまう時が……。

皆さん、こんにちは。熊谷優一です。この街角TOKではふと思いついた疑問を取り上げています。

我々はなぜ戦争をしたのか

1998年8月に「我々はなぜ戦争をしたのか-ベトナム戦争・敵との対話-」という番組がNHK総合で放送されました。ベトナム戦争を指揮したアメリカとベトナムの指揮者たちが当時を振り返り、戦争を回避したり、早期に終結させることは本当にできなかったのかについて、1997年6月にハノイで行われた4日間の議論を追ったドキュメンタリーです。

私は当時この番組を生で見ていました。かつて敵として熾烈な戦争を繰り広げた当事者たちの対話が実現したということがまずもって驚きでしたが、人類史上最も血なまぐさい世紀と言われる20世紀の終わりに、同じ過ちを繰り返したくないという願いはかつての敵味方は関係なく共通しており、とても意義のある重要な出来事だと思いました。

自粛生活が始まってインターネットで動画配信サービスを利用するようになりました。結構昔の作品もラインナップに加わっていることから、この番組をもう一度見たいと探してみたんですね。残念ながら見つけられなかったんですが、同名の書籍が発売されていることを知り、早速買って読んでみたんです。

誤解の連続と失われた機会

著者の東大作さん(現上智大学教授)はNHKのディレクターとして、この対話データの独占使用権を得て番組政策を実現しました。そのストーリーを読んで、また目頭が熱くなったのですが、どんな困難にも諦めず、根気強く交渉し、目標を達成するという姿勢に頭が下がるとともに、こんな素晴らしい番組を私たちに届けてくれて本当にありがとうと言いたいです。

番組は音声と写真で放映されました。怒号が飛び交うシーンがあったことを憶えています。何度も何度も見解は衝突し、両国の参加者たちは反発しあいます。アメリカ側は過ちを認めつつも、アメリカの言い分を主張し続け、ベトナムはベトナムの言い分を主張し続けました。

冷戦下におけるリーダーとしてインドシナ半島の共産化を防ぎたかったアメリカ。ただ独立と統一を目指して戦い続けたベトナム。対話ではそれぞれの立場から見るとどちらの主張ももっとものように思いました。しかしながら、その誤解の連続が戦争をさらに激化させたことは間違いありませんでした。

異なりを理解しようというマインド

この時の対話では、ルー・ドアン・フィン当時北ベトナム外務省和平交渉担当官はアメリカがベトナム戦争後も議論と検討を続けてきたことをより良い未来のために歴史に責任を持とうとしている評価しています。一方、ベトナム戦争を回避することはできたかどうかについては完全に一致はしていないものの、対話を通して絶対に不可避だったとは言えないと彼は述べています。

最後に、グエン・カク・フィン当時北ベトナム外務省対米政策局員がマクナマラ元米国防長官に質問します。アメリカとベトナム双方が和平に向けた最低条件がいかに調停可能だったかについて述べたが、それはいつの時点で気づいていたのか、と。それに対し、マクナマラ元米国防長官は「おとといの夜です」と答えたのが印象的でした。

お互いを読み誤り続けた結果、あんなにもたくさんの人命が失われ、戦争終結後も不幸が続いた事実に私は愕然としました。正義を振りかざして断罪したいわけではありません。ただ私たちは物事を私たちの立場から理解しようとしますが、それは他の人の立場から理解していることと必ずしも一致しないということを知っている必要があると思うんです。

最後に

この対話に参加した誰一人として戦争の継続を望んでいませんでした。みんな本当は終わらせたかったんです。でも、終わらなかった。この対話は1998年まで6回行われました。その模様は「果てしなき論争-ベトナム戦争の悲劇を繰り返さないために(ロバート・マクナマラ著)」でより詳しく描かれています。

今後ますます日本の地域コミュニティはグローバル化し、多様な価値観や文化が共生するようになることでしょう。だからこそ批判的に考えられること、他者と対話を通して課題を解決しようとする姿勢はとても大切です。異なるものの見方を吟味し、異なる背景を持つ人と協働しながら子どもたちがよりよい社会で作っていけるよう、私たち大人は彼らがそれを学ぶ機会を設ける責任があると思います。

この番組を見て作った歌があります。「ヤシ林」といいます。後に「サイゴンの夜はふけて」というミュージカルの1シーンで用いました。演劇部の生徒たちが歌えるようにと私の声で録音したもので、お世辞にも上手ではないのですが、もしよろしかったら聞いてみて下さい。