敗北感のその先に見える景色

みなさん、こんにちは。熊谷優一です。今回は一度ボツにしたエントリーをお送りします。この原稿を書く前に書き上げたのが「したたかな敗者たち」というエントリーです。「知の理論(Theory of Knowledge: TOK)」というディプロマ・プログラムの世界共通必修科目に関する会議に参加したものの、英語での議論に全然刃が立たなかったと書きました。

限界に挑戦することなしに限界を知ることはできない。だから挑戦し、玉砕してこそ、限界を広げていけると熊谷は信じていますが、精神的には……。

では、時間を戻しましょう。2019年9月、ここはウランバートル上空です。イギリスはカーディフで国際バカロレアの会議を終えて、大阪に帰る飛行機の中この原稿を書きました。

敗北の先に見える景色

「TOK」という科目の指導と評価について発展的に議論し、叙述できる英語力を強化すること。今回の会議に出席して、痛感したのはまさにその一点です。日本語でのみ教えるのであればそこまで考えなくてもいいのかもしれませんが、世界中で各言語でTOKを教える指導者を後方支援したり、日本語でのTOKの内情と課題をTOKという科目の運用に反映させるためにはTOKという科目について多面的に、多言語の指導者が参加して議論が進められる必要があります。もちろんそこでの共通言語は英語です。

それは日常会話とか、試験とか、IBの文書を書くとかといった分野で求められる英語力とはまた異なる範囲を含んでいます。TOKにはTOK独特の言語と手法があります。例えば、「所定課題(The Prescribed Title)」には「知識そのものに対する問い(Knowledge Claim)」とか、「知識の領域(Areas of Knowledge)」や「知るための方法(Ways of Knowing)」と結びつけて書けとかってあるわけですよ。

またこれらの細部がまた日本語でもややこしい。それらを英語で話せはしますが、例えば評価がどのようになされるべきかを喧々諤々議論するのは、まだ私には簡単ではないところです。私はディプロマ・プログラム・コーディネーターを2つの国公立の学校でしてきましたが、業務のほとんどは英語で行います。その点に関しては、自信を持っているのですが、TOKを英語でとなるとまだまだだと感じています。

今回は全然太刀打ちできずに敗北感すら覚えましたが、終わってみて、太刀打ちできるようになるにはどうすればいいのかというのは割とあっさり見えてきました。そしてそれが、日本の英語教育のこれからの話に繋がっているように思っています。

英語4技能のその先に

日本の英語教育の弱さは、大部分を「英語で」ではなく、「英語を」学ぶことそのことに焦点を当てていることにあるのではないでしょうか。学習者としても、指導者としても、今回TOKの会議に参加してみての私の敗北の源はまさにそこにあると感じています。

昨今の外国語教育では聞く、読む、話す、書くといった4技能ではなく、目標言語で学び、考える力を育成することが注目を集めていますね。4技能のその先には思考力育成があります。少し前まではスピーキングに過度の焦点が集められていました。しかし、リーディング(インプット)が疎かになると話す内容はスッカスカになります。かといって、読解にばかり時間をかけてしまうとアウトプットがいつまでたってもできないというジレンマもあります。

学校教育の中でできること、一科目の中だけでできることには限りがあるのはみなさんもわかっていると思います。が、最終的にグローバル社会で通じる英語力を育成することを考えた時に、英語を学ぶのではなく、「英語で学ぶ」という視点が必要です。教科書に記載されている題材は多岐にわたっているので、英語という科目こそ非常に教科横断がしやすい科目です。英語以外の教科の内容を取り入れた英語教育が英語で学ぶ、英語で考えることに繋がっていくのではないでしょうか。

「英語で学ぶ」を実現するには

「英語で学ぶ」ことに手っ取り早く取り組めるのがTOEFLではないでしょうか。TOEFLには公式スコアにはなりませんが、TOEFL PrimeやTOEFL Juniorといった小学生、中学生も受験できる試験もあるので、そういうところから始めてみるといいかもしれません。高校生のみなさんはTOEFL Juniorである程度の成果(スコアは800点が目安かなと私は思っています)が出たら、TOEFL ITPを模擬試験として活用し、公式スコアとして利用できるTOEFL IBTの準備をするといいと思います。

TOEFLは自然科学や人文科学の分野もカバーされていますし、「英語で学ぶ」、「英語で考える」ことに加え、将来的に海外に交換留学をしたり、奨学金や何かのプログラムに応募したりする時までに、スコアを提出することになると思いますが、その準備として生きてくると思います。

私は日本の文化と文学はドナルド・キーンの英語の本を読んで勉強しました。もちろん日本語で文学作品は読みましたが、それをどう読むのかといった視点をドナルド・キーンの本から得たので英語で話せるようになったと言ってもいいと思います。だから、カーディフでの会議の夜にワインを飲みながら、バンコクのインターナショナル・スクールで文学を教える先生と三島由紀夫の作品についてとても面白い議論ができました。

最後に

そんな風に自分が興味を持っている分野を英語で勉強したら、もっとクリティカルでクリエイティブな英語運用力を高めることができるのではないかと思っています。英語を勉強することで母語でのその学問分野にも意識が向き、英語でも理解できるようになるからかもしれません。

現在、高校生にTOEFLの指導をしていますが、リスニングやリーディングでは内容によっては、英語で問題文を読ませる前に日本語訳を読ませることがあります。例えば天文学や地質学、文化人類学に関する英文の日本語訳を読んでも、内容が理解できないことが生徒たちにはよくあることだからです。母語で理解できないものは、読んでも聞いても、外国語で理解することはできません。

日本では、主要都市で一般受験ができる公開テストも年2回実施はされているものの、主に学校が導入しないとTOEFL PrimeやJuniorは主に学校が導入しないと受験できません。地方に住んでいても、通っている学校で導入していなくても、TOEFLを勉強したいという子どもたちが、学校を超えて個人で勉強したり、受験できるような仕組みをどうにか作れないもんでしょうかね。小学校のうちからこれをやれたら絶対変わると思うんです。日本人の英語力は。2018年夏に開催したナレッジキャラバンみたいに大人も子どもも一緒に英語を勉強するのもありかもしれません。ちょっと計画してみようかな……。

後2時間ちょいで大阪です。空に旅にお付き合いいただきありがとうございました。