街角は様々な問いで溢れています。本屋に並ぶ書籍、アーケードで聞こえてくる音楽、やがて暗黙の秩序が生じる無秩序な人の流れ、商店街で交わされる一見無意味な会話。普段はなんとも思わないことがふと気になりだしたら、それが私たちの「知の目覚め」の合図です。
皆さん、こんにちは。当ブログ主宰の熊谷優一の友人、新居明です。優一くんが何やらIBの仕事でずいぶん忙しく、なかなかブログを更新できないというので久しぶりに私が書くことになりました。
今年のToKtober Festは認知スタイルがテーマになっているようですね。認知スタイルは本当に人それぞれで、またそれを自分で選択していない生得的なものがあるなと常々思っていましたが、優一くんの授業の話を聞いていると、「知の理論」という科目は自分という人間の認知を特定するのに適しているように思います。
そしてまた、私たちの認知は外的要因にも知らず知らず影響を受けているようにも感じています。今回はそんなお話をしようと思います。
正岡子規の話からの
何年か前、優一くんが道後温泉から連絡が来ました。松山市立子規記念博物館からは、何やらテンション高めに正岡子規についての新発見についてメッセージが届きました。彼の敬愛するドナルド・キーンが正岡子規についての研究した成果、日本の公教育に国際バカロレアを導入することに対して彼がなかなか納得できなかった頃に参考にした陸羯南が正岡子規を支援したこと、35歳で亡くなる直前までとても精力的に創作していたこと、「紫陽花や昨日の誠今日の嘘」など子規の俳句にはどことなくユーモアがあること、五七五の制約の中でこそ感じる自由なんてことを私たちはやり取りしていました。
その流れで送られてきたのが道後温泉本館のロッカーの鍵の写真です。「これなんて読むと思う?」という問いを添えて……。みなさんも一緒に考えてみてください。
「お」にしては書き方が独特。外国の人が書いたのか。記号にしては脈略がわからない。何と読むのが正しいのか。私は正岡子規の話をしていたこともあって、すっかりひらがなだと思っていたのですが……。顔を横にしてこの写真を見てください。これ、ただの「46」なんです。
お前の認知を信じるな
彼も湯船に使っている間ずっとこのことを考え、結論が出ず、湯船を出て、ロッカーに鍵を差し込んだときに気づいたそうです。彼は札の穴が空いている方を上だと思いこんでいたせいで混乱したと話していました。私は正岡子規の話を事前にしていた影響でなぜかひらがなに違いないと思いこんでいたんです。
こんな風にヒトの認知って不思議だなぁと思ったんですね。たしかに「ロフタスの実験」など心理学の実験を見ると、質問に含まれている言葉の影響を受けて、記憶した内容に対する答えが変わることが報告されています。だから、事前にしていた話題の影響を受けて、見聞きした話を誤解するということもありうるんじゃないかと思いました。
そうそう、高校生のときにこんなことがありました。心理学者のジャストローが作成した騙し絵がありますよね。ウサギとアヒルのどっちに見えるというやつです。優一くんは悪い目をしていたのですぐに何かあるぞと分かりましたが、おもむろにピーターラビットの話をしてからその絵を見せて、ウサギだと誘導させたり、ニルスのふしぎな旅のレコードをもっていた話をしてアヒルにもって行かせようとしたりしていました。流石に、レコードの話はニルスが乗っていたのがモルテンという名のアヒルだというのはあまりにも遠回しすぎて全然伝わりませんでしたが、認知の前にそういう操作がされている可能性があり、私たちが見聞きしたことやものを正しく理解していない可能性があることを今回のロッカーの鍵の件で改めて感じた次第です。
マスク生活とマガーク効果
マスクをつけるのが必須になって困ったのが、聞き間違えが多くなったことでした。マスクやシールドのせいで、声がこもってうまく聞き取れなかったりしたことありませんか?
スーパーのレジで「袋はよろしいですか?」とか「ポイントカードはよろしいですか?」が聞き取れなくて、私は何度も「え?」「え?」って聞き返して、えらい時間がかかったことがあります。聞き取れてしまえば、たったそれだけのことなんですが、スーパーはいろんな音が混ざっていますし、レジの担当の方もいろんな発音発声が人によって、男女によって、地域によってもすごく異なりますし、それ以来私はレジ恐怖症になりました。できるだけ無人のレジにするのですが、ない店舗もあるわけで、そういうときは未だにちょっと緊張してしまいます。
私だけだと思っていたら、そんなことはないようなんです。新型コロナウイルスが世界的に大流行し、マスク着用が義務付けられて、困ったのが外国語教育界隈だそうなんです。日本語を教えている友人が言っていました。日本語は日本語を学ぶ学生たちにとって、口の形も重要な音を区別する重要なのにマスクで見えないから、なかなか伝わらないことがあるそうなんです。たしかに発音指導、大変そうだなと想像できますよね。
そんな折、マガーク効果という認知バイアスが新聞などで取り上げられましたよね。実際に聞かせる音声と異なる口の形の映像を見せると違った音に聞こえるというものです。
最後に
優一くんは特に発音する場所が同じ音(たとえば、た・だ・な)のときはできるだけゆっくり丁寧に発音するようになったと話していました。さすが、言語の先生ですよね。だてに英語、韓国語、日本語の指導資格をもっているわけではないと思いました。私もその話を聞いて、マスクをして話をしているときは思っているよりちゃんと伝わっていない可能性があるなと、丁寧に発音するよう心がけるようになりました。
人に騙されないようにしようと心がけているつもりですが、もしかしたら私を騙しているのは私自身の認知スタイルなのかもという疑念が生じてきましところで、今年のToKtober Festは今回をもって終了です。
久しぶりのエントリーでしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。またいつかお目にかかりましょう。新居明でした。