今からIBを始める君へ:奨学金取得のススメ番外編

皆さん、こんにちは。熊谷優一です。前回、前々回と現在メルボルン大学で学んでいる岩崎​​永光里さんのインタビューをお届けしました。今回はその中では取り上げなかったこぼれ話をお届けします。

岩崎さんとは、大阪市立水都国際高校(現大阪府立)の第1期生とIBコーディネーターとして出会いました。その当時、開校したばかりでIBのことを知っている人は私以外にいませんでしたし、また、学校はIB認定も取れていませんでした。

大阪市の当初のデザインでは同じ年に入学した中学1期生が高校2年生になるタイミングでディプロマプログラムを始める予定だったので、4年じっくりかけて先生も生徒も指導と学習のマインドセットをインストールできるようにコーディネーターとして支援していこうと思っていました。IB認定を取るのはコーディネーターとして2回目だったので、認定作業には不安は全くありませんでした。むしろ、余裕さえ感じていました。

ところが、蓋を開けてみると、高校1期生からDPをやるというプランになっており、私は慌てふためきました。その時点で、開校準備に携わっていた教員は私を含めて二人しかいませんでしたからね。翌年4月に開校し、入学前の体験授業でIBの学び方に興味津々な高校1年生が入学し、この生徒達が高2に上がるまでにIB認定を取らなければいけないというプレッシャーに押しつぶされそうでした。

先生達がDP科目を教えられるようにトレーニングするのはもちろんですが、生徒達がDPをよりよく学べるようにマインドセットを形成させるのも私にとっては重要な仕事だったからです。DPを始めたものの、ついていけず不登校になって退学するというケースも報告されていましたし、ディプロマが取れないことを避けられるような準備が必要でした。

そんな中、岩崎さんは私のプレIBのクラスでそのポテンシャルを発揮します。元々、いろんな頃に疑問を持ち、それを発展させながら考え、言語化することに喜びを感じるタイプの学習者でしたし、彼女のそのストイックな学習姿勢をみて、「この子は絶対に42点いけるな」と確信しました。高校1年の1月にはそのことは彼女にも伝え、「プレッシャーをかけないでください」と言われましたが、結局彼女は45点満点中ズバリ42点を取りました。

正式に成績が出て、「ほらな!」と彼女に言ったら、「真面目に怖い」と返されました。彼女は自分の成績が42点だと知った時のことを次のように話しています。

岩崎:「42点?まじか!」と思いました。結果が来るのは本当に怖かったです。39点もいかないと思っていました。結果が公表される1月3日の夜から寝れず、4日の朝5時に見て、大騒ぎしました。家族からはうるさいって怒られました。予想より良かった。Mock(学校で行った模擬試験)までは過去問を解いていましたが、IELTSの試験もあったし、阪大のプロジェクト、奨学金の申請、国内大学出願もあり、高校3年の夏休み以降は思ったように勉強時間は取れませんでした。最終試験には一夜漬けでのぞんだようなものだったし……。

そういえば、彼女は高校在学中に大阪大学のseedというプロジェクトにも参加していました。応募して、合格した時、DPの勉強と両立していけるか不安だと相談を受けましたが、「まずはやってみて、もし無理そうだったらやめればいい」と助言しました。でも、挑戦したら、その心配は無用でした。事実、その研究成果で彼女はベストパフォーマンス賞を受賞しました。このことは大学進学にも、奨学金の獲得にもプラスに働いたと思います。

ちなみに、彼女に高校一年の時のプレIBの授業の中で何が一番印象に残っているかと聞くと、「喜助のやつ。想像力も必要だが、物語をロジカルに、多角的に読む楽しさを知った」と返ってきました。「喜助のやつ」とは私がプレIBの授業の一番最初に毎年行っている「高瀬舟」という短編小説の主人公「喜助」のプロファイリングです。大森荘蔵の本と合わせて、解釈についても考えます。以前、岩崎さんの2年後輩に当たる山下晄生君が書いてくれているので、授業の内容はそちらをご覧ください。

Bコースに進むためにはプレIBセッションを受けるという条件が山下くんの学校にはあるそうです。そのセッション初回に臨んた山下くんは大失敗をしでかしたと語っています。

ここからは、ランダムに彼女と話した内容です。

まずは、DPの最終試験の印象について。

岩崎:最終試験で、いけたなと思ったのは国語と歴史。過去問をやっていて、使えるネタをアーカイブして、それを活かせた。数学のPaper 1はけっこうやばかった。もっと毎日基礎問題に取り組んでおけばよかった。数学はあと2点、生物はあと1点で一個上のグレードだったので、リマークをかけてもよかったかもしれない。

最終試験の前と後について。

岩崎:試験前と結果が出る2ヶ月を比べたら、試験前の方が断然しんどかった。タイムマネジメントもそうだが、体力的もしんどかった。エナジードリンクを飲んでいた。試験の結果が出る3日前くらいから心臓が宇宙に飛んでいきそうだった。

国内の大学進学について。

岩崎:国際基督教大学(ICU)は書類と面接だったが、不合格だった。結構な時間かけて準備したのに落ちて、精神的にしんどかった。上智(理工学部)と岡山大(物理学科)は書類だけで合格を出す。学部によっては面接もあるが、書類のみのところは学校から出される予測スコアではなく、公式なスコアを重視している。北大の入試は最終試験の前に書類審査(予測スコア)、面接は11月頃(試験2週あと)。公式スコアが確定してから正式に合格通知。面接のみ。面接は英語でも質問された。準備する書類が多かった。

45点満点中42点を獲得した岩崎さんでも、ICUは不合格でした。この時の彼女は本当に落ち込んでいましたが、彼女が学びたいことははっきりしていたので、リベラルアーツの大学とは相性はよくないという側面もありました。何より、第一志望の大学ではなかったので、落ち込む必要はないと伝えたのを覚えています。

北海道大学に3ヶ月だけだけど、通ったことについて。

岩崎:なんだかんだいって、北大に通ってよかった。通うことで知り合う人、大学生の忙しさ、履修登録など学生としての文化を体験できてよかった。

JASSOの奨学金の合格通知が来たときは学食で友だちと食べていました。受かったのも嬉しい反面、せっかく仲良くなった友達と突然別れることとなり、情緒が不安定になりました。繰り上がり合格が5月31日までに来なかったら諦めよう。北大で頑張ろうってきめたのですが、通知が来たのは6月1日。あきらめてたのに!めっちゃうれしかったです。親がすごくよろこんでくれたのを覚えています。

最後に、今からIBを始める皆さんへ、岩崎さんからのメッセージです。

私は、IBは絶対やったほうがいいって思っています。IBをやっていたから、大学に入ってレポートの構成などアドバンテージがあるとわかりました。IBは、視点をずらして物事をクリティカルに見て、それを言語化する力がつきます。進路が狭まると心配される人がいるかもしれませんが、不利ではなくむしろ有利にしかならないと思います。

IBやる前には英語力をできるだけ高めることです。全ての科目を日本語で受けられるわけではないし、教科書は英語で書かれていることが多いし、様々な課題を仕上げる時に参考とする英語の文献もあるからです。また、本を読む習慣は必要だと思います。本を読んで、自分の興味範囲を広げたり、疑問を持つ機会を増やすことで、授業をただ聞いて受け入れたり、答えを得ようとするのではなく、ロジカルに考えられるようになると思います。

保護者の皆さんへ。私立やインタナショナルスクールでIBをやるのはお金がかかります。どれくらいの学費をかけられるかにもよりますが、公立校のIBは公立の学費でIBを学ぶことができます。そんな選択をすることもできるので、子どもがやりたいと言った場合には、不安もあると思いますが、子どものやりたいことを尊重してほしい。ただ、本気で学んでやるという強いモチベーションは必要です。それでもIBをやりたいと言う時は、ぜひ応援してあげてください。本気でやればやるほど、不安も大きくなります。そんな時寄り添ってあげてください。