国際バカロレアをたびたび斬る!

これまで「国際バカロレアを斬る!」「国際バカロレアを再び斬る!」「国際バカロレアをまたまた斬る!」で三度、国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)を日本の公教育に導入するにあたって、私なりの考えを述べてきました。

熊谷優一が国際バカロレアに対する考えを包み隠さず述べています
熊谷優一が国際バカロレアに対する情報入手について述べています。

https://knowledge-caravan.com/againandagainisibthebest

たびたび取り上げているので、「国際バカロレアを斬る」シリーズを新たに設けることにしました。

期せずしてIBに

私が前任校である筑波大学附属坂戸高等学校でIBに出会って、もう5年になります。気が付けば、私にとっては2校目となるIB認定校を目指して大阪の学校でコーディネーターをしつつ、現在、文部科学省の国際バカロレア教育推進コンソーシアムのACファシリテーターを務めています。また、「知の理論(TOK:Theory of Knowledge)」の採点官のチームリーダーをしつつ、採点標準化会議に出席しています。

2019年4月17日には韓国でも、韓国語と英語の二言語による国際バカロレアのプログラムが公教育に導入されることが報道されました。最近では国際バカロレア関係の文書を韓国語に翻訳するサポートもするようになりました。

この5年間、私は期せずしてすっかりこの教育プログラムにどっぷり浸かるようになりました。IBは、一教育者としての私の可能性をも広げてくれたように思います。

IB ≠ 世界の有名大学への切符

日本では高校2年~3年のプログラムである、ディプロマ・プログラム(DP:Diploma Programme)の認定校が増えています。DPは大学準備課程と位置づけられており、そのスコアが大学入試に活用されています。

日本(!)のメディアでは「DP取得 = ” 世界の名だたる大学への切符 ”」と報じられることがあります。しかし、それは正確ではありません。「今からIBを始める君へ:DPの評価について」でも説明しましたが、ディプロマを取得するためには、様々な厳しい条件がありますし、パッシングスコアが24点だったのか、40点だったかによって大学進学の選択肢も変わってきます。

EdmodoConでうまく説明できなかったDPの評価について挽回の意味を込めて熊谷が説明します。

DPの各科目は7点満点で採点されます。6科目なので42点になりますね。それにコア科目である課題論文と知の理論のボーナス点が最大3点加点されます。細かい条件はあるのですが、基本的には24点取得するとフルディプロマが付与されます。

TOKの過去のエッセーの所定課題は「知の理論(TOK)所定課題 課題文見本」から入手することができます。課題は英語、スペイン語、フランス語、中国語、日本語で同一の問題が出題されています。

その外の科目の過去問題は「Follet IB Store」で購入できます。どんな問題ができているのかを分析すれば、どんな学習をするのかが見えてくると思います。

DLDPは誰のため?

日本では文部科学省と国際バカロレア機構との間で、日本語と英語に二言語による、いわゆる日本語(DLDP:Dual Language Diploma Programme)の実施が合意されました。すべての科目ではないのですが、日本語でも試験を受けることができるようになりました。

それまではインターナショナルスクールや一部の私立以外の学校で英語のみによるDPは実施されてきましたが、英語がネイティブレベルでないとプログラムを受講することはできませんでした。

日本語DPでは海外の大学に進学できないと言った声もありますし、英語やスペイン語、フランス語によりDPと比べて歴史が浅い日本語DPはクオリティが低いという声も根強いです。しかしながら、これまで国内外のインターナショナルスクールを訪問してきましたが、どこの学校も課題を抱えていましたし、英語DPを受講しているからといって、全員がディプロマを取得できるわけでも、世界の有名大学に進学できるわけでもありませんでした。

どの国へ進学するのかによってもその対策は異なります。山田浩美先生が「新春特別インタビュー:山田浩美先生に聞く-1-」や「新春特別インタビュー:山田浩美先生に聞く-2-」で触れているので、まだご覧になっていなければ、ぜひ目を通してみてください。

IBの最終試験についてバンコクのIB校で指導に当たる、当ブログでもお馴染みの山田先生にお話を伺いました。
IBの最終試験についてバンコクのIB校で指導に当たる、当ブログでもお馴染みの山田先生にお話を伺いました。

これまでのDPC(Diploma Programme Coordinator)としての経験を通して、日本語DPは志向する層が大きく分けて3つのグループあることを実感しています。一つ目のグループは日本で生まれ育った中学生、二つ目のグループは海外の日本語学校などに通っていた帰国生、三つ目のグループは日本のインターナショナルスクールに通っている生徒です。どのグループの生徒たちも自分の現在の強みを活かし、そして将来の強みを養おうと英語と日本語によるDPを希望するようです。

外国籍、もしくは二重国籍を持ち、インター校に通う生徒が、日本でキャリアを築いていくことを決め、高校から一条校に入学するといったケースが年々増えてきました。日本で長く生活しているため、日本語も堪能で、母語は英語。そんな彼らにとって、日本語DPはとても魅力的なようです。帰国生もその高い英語力を活かすことができ、日本語ネイティブの強みもあります。日本で生まれ育った日本語ネイティブの生徒たちはより高い語学力と思考力を高めるプログラムを求めて日本語DPを志望しています。

最後に

実は、日本の学校はもうすでに国際化が始まっています。そしてその流れは一層強まっていくことでしょう。多様な学習ニーズに日本の学校も答えていかなければなりません。

IBの教育を日本の教育に導入する利点は、学習方法を学習者が自ら選択できるところにあると私は考えます。英語力をSATなど別の試験を受けて証明しなればいけませんが、日本の学習指導要領に基づいた教育を受けていても海外の大学に進学できないということではありません。

私は30歳を過ぎて、大韓民国政府招聘大学院奨学生の試験に合格し、渡韓してから韓国語を学びました。試験を受けた当時、韓国語は一言も話せませんでしたし、ハングル文字も読めませんでした。血を吐くほど猛勉強はしましたが(笑)、学びたいことがはっきりしていたので、大学院にもすぐ入学できましたし、在学中には、なんと学長賞をもらいました!勉強で褒められたことがなかった私には青天の霹靂。

今は、いたるところに良質の情報は転がっています。それを入手し、選別するスキルとともに、どう実現するか戦略を立てることと、そもそもの努力は欠かせません。そして、あなたがどういう人なのか、何をしてきて、何を目指しているのか、それを明確に見せることができる、語ることができること。それだけはどんな学びを通してもキャリア形成に欠かせないのではないでしょうか。