13月とあさばみの歌

皆さん、こんにちは。熊谷優一です。

「13月」とは、今ではもう殆ど使う人がいませんが、かつては「おめでたいやつ、まぬけ」という意味で三陸でよく使われていた言葉で、私の祖母が私の失敗を罵るために最も高頻度で用いたフレーズのひとつです。

さて、先日、新シリーズ『今からおじさんになる君へ』で7月にフィジークの大会に出るべく体を作ってると書いたばかりなのですが……大会申し込み締切日にトレーニングを終えて帰宅した私は疲れ果てて寝てしまい、気がついたら翌朝になっていて、申し込みを忘れてしまったのです。何のためのトレーニングだったんだ。この半年のことを思い、しばらく起き上がれませんでした。

そのことを大会の翌週、何年かぶりに仙台で会う約束をしていた友人に伝えると、「変わらないクマユウに安心した。大会の報告より、そっちの方が楽しいからね。」って返ってきました。「そっちの方が楽しい」って言われちゃったので、「ま、いっか」思えたのですが、こんな人が周りに多いから、私という人間は学ばないんですよ。

こんな時、ばあさんみたいに叱ってくれる人がいてくれればいいのにというのは、あまりにも都合良すぎでしょうか。

あさばみ

皆さんは、「あさばみ」という言葉を聞いたことがありますか?私の親の世代の人が子供ときの習慣で、朝起きると大人が「あさばみ」を口に入れてくれたのだそうです。私の家は、もともと何世帯か「まめのおんちゃん」の家に兄弟親戚一同が同居し、そこの子どもたちが毎朝、おっぴじいちゃん(曽祖父)の前に「あさばみの列」を作ったらしいのです。

私自身は「あさばみ」を知りません。辞書で調べても出てきませんでしたが、『気仙郡語彙集覧稿』という本を引用したブログによると、「バミは『万葉集』の「瓜ハメば子供思ほゆ栗ハメばまして偲はゆ」の食むの転。武士が禄をはむというのがその動詞形である」そうです。ちなみに、気仙郡とは岩手県沿岸南部にある大船渡市から気仙沼など三陸沿岸の地域で、その地域の方言を「気仙語」などと言います(大船渡のお医者さんが気仙語に翻訳した聖書があるとテレビで見たことがあります)。

で、「あさばみ」とは朝食前の軽食らしく、おっぴじいちゃんから「あさばみ」に「タイコパン(正式名称不明)」というタイの形をした甘くないビスケット系のお菓子を口に入れられたと大人たちから聞きました。「タイコパン」は一斗缶に入って売っていたそうです。

そういえば、一世帯の人数が多かった時代は今でいうコストコサイズでものが売っていましたよね。かりんとうが一斗缶で売られていたのは昭和50年代に子どもだった私は見た記憶があります。

あさばみと貧しさの間に

この話を聞いて、とても意外に思ったのは、私が聞いていた戦前戦後の東北の貧しさを聞いていたからでした。食い扶持を減らすために、子どもを売ったという話は以前、「13月とキジ子の一生」でワニの餌に売られたという女の子の話を書きました。北上川という岩手から宮城県に流れる川で人身売買が行われたという話は有名です。

その時代からは随分経ちますが、決して豊かではなかった戦後の東北で、一日三食の他に「あさばみ」があったことは驚きでした。大人たちが「あの当時は貧しかった」という時、食べることにも困るくらい貧しかったと思っていたからです。

しかし、ばあさんやまめおばちゃんをはじめとした私より2世代上の人たちの話をよくよく思い出してみると、朝ごはんを食べて、10時には「タバコ(間食・おやつ)」にして、昼ごはんを食べて、3時には再び「タバコ」にして、夕ご飯にするという、食に関しては十分な回数と量があったことがわかります。

10時と3時のタバコの中身

遠洋漁業に出ている人以外の陸にいる家族は、だいたい日中は広田湾内で漁業に勤しむか、畑作業をしているかして過ごしていたそうで、肉体労働をして腹が空くからと3食以外に間食をとっていたそうです。子どもたちも学校から帰ると作業を手伝うことになるので、大人と一緒に3時のおやつを食べるのですが、聞くと「はやき」など結構ガッツリ系なおやつでした。

「はやき」は小麦粉を溶き、甘い味噌などを入れたりして焼いたもので、茗荷の葉っぱに包んで畑に持って行っていたそうです。ばあさんも、おやつによく豆を入れたのを作ってくれました。絶妙な甘さと歯応えだっとように思います。

その他には、蒸したさつまいもやじゃがいも、とうもろこしなど、実際に畑で採れたものが多かったようです。確かに、私もその畑の手伝いに子どもの頃はよく行っていましたが、食べきれないほどの野菜やスイカを持って返ってきた覚えがあります。現金収入は限られていても、海産物は漁に出て、農産物は栽培して豊富だったので食べるものには困らなかったのかもしれません。

最後に

実は、私もあさばみの習慣があります。朝起きて、コーヒーを淹れて、チョコレートをひとかけらだけ口に入れます。万年胃炎のくせに、コーヒーをブラックで飲むのが好きな私の言い訳になっています。

そういえば、たった今思い出したのですが、昔、インドでアーユルベーダの病院に入院した時に、まさにビスケットがあさばみに出ました。ホットミルクと一緒に。もしかして、あさばみの習慣ってグローバルなのかもしれませんね。

みなさんのお住まいの地域では、あさばみに似た習慣や言葉はありませんか?