未来の先生展レポート vol.1

9月15日(土)、16日(日)の2日間、東京は聖心女子大学で「未来の先生展2018」が開催されました。私は15日に仙台育英高校の石田真理子先生、茗溪学園高校の松崎秀彰先生、そして台湾は台中市にある明動中学の阿部公彦先生と一緒に「国際バカロレアは日本の教育を変えるのか」というテーマでワークショップを行いました。

みなさん、こんにちは。熊谷優一です。あれから3か月もたってしまったのですが……今回から4回に渡って、「藪の中」方式でこのワークショップの模様を異なる4人のファシリテーターの視点から振り返りたいと思います。

プロジェクトベースで働く時代

前任校である筑波大学附属坂戸高等学校がIB校認定を受けたとき、永田恭介学長に報告しに筑波大学へ行きました。その席で永田学長はこんなことをおっしゃいました。

「偏差値で測れない学力を大学は測る時代が来ること。そしてこれからは会社に雇用され続けるのではなく、プロジェクトごとに人が集まり、それが終わるとチームは解散するといったプロジェクトベースで働く時代が来るということです」

偏差値で測れない学力を評価するということはすでにAO入試で実施されています。そしてこうした選抜方法はどんどん広がりを見せているので、すぐに理解できました。しかし、プロジェクトベースで働くとはどういうことなのか、私はピンときませんでした。まして学校教育の現場で起こりうるのか、懐疑的でした。

しかし、あれから2年。私は身をもってプロジェクトベースで働くことを体験します。昨年、IBOに招かれて、「Programme Standards and Practices」改訂プロジェクトに参加したこともそうです。あれは私の働き方に対する考えを変えるエポックメイキングな3日間でした。

当ブログを運営している天才的ぼた餅キャッチャー、熊谷優一がIBのプロジェクトメンバーに選ばれました。
本ブログを運営している天才的ぼた餅キャッチャー、熊谷優一がIBのプロジェクトメンバーに選ばれました。

そして、今回の「未来の先生展」でも、まさにプロジェクトベースなコラボレーションが実現しました。

お天気祭り

私たちは仙台、筑波、大阪、台中と全く別々のところに住んでいて、別々の学校で働いています。台中の阿部先生とは香港のIBワークショップでご一緒して以来の付き合いです。松崎先生とは筑波つながりで頻繁にお会いしてきました。そして阿部先生はこの前松崎先生の学校を訪問しています。石田先生は私の故郷、宮城の先生ということもあって、何か別の文脈で親しくさせていただいています。

今回は3人に一斉にやりましょうってメールをしたんですが、石田先生と阿部先生が会ったのは実は未来の先生展の前日、「お天気祭り」ででした。「お天気祭り」とは重要なイベント行われる前日にみんなで集まって成功を祈念する会で、とどのつまり、ただの飲み会です。

私たちは、「お天気祭り」でそれぞれの授業実践を語らいました。それぞれの切り口が面白いんです、また。参考になること、今まで持っていなかった視点がたくさんありました。例えば、阿部先生が、「日本の教育って凄いバランスがとれてる」って言ったんですね。「それどういうこと?」ってなりますよね。

まんべんなく、平均以上にバランスよく、求められるスキルや知識を伸ばしたがりがち…。それに対して台湾が凸凹でいいっていう前提がそもそもあるから、そのギャップを埋めようとしない。「かえってバランスを取りすぎて日本の教育って窮屈なところありませんか?」って阿部先生は問うてくるのです。

気が付けば私たちは全員パソコン持参で言ったにも関わらず、一回もパソコンをカバンから出すこともなく、打ち合わせをしないまま、その日はお開きになりました。

プロジェクトベースの働きかた

というわけで、当日は聖心女子大近くのオシャンティなカフェで、「夢はカフェを開いて、黒くて長いエプロンを着て颯爽と働きたい」というどーでもいいことを語らいながら、何となく、「昨日のお天気祭りで話したことみたいな流れでよくね?」ということになりました。

短期間のプロジェクトを遂行するためには、シンプルでオーソドックスなシステムが必要です。複雑であればあるほど、仕事の仕方について打ち合わせが必要になりますが、単純であればあるほど、中身の話に焦点を当てることが可能です。

今回は総合ファシリテーションを私が担当し、議論の枠組みやテーマを設定し、それをもとに3人の先生方とワークショップの方向性について合意形成するところから始めました。そこから大テーマについて、それぞれの先生がどういう切り口で迫るかについて提案したり、フィードバックをしあったりしました。

時には話題が発展しすぎてしまい、元々のテーマから離れるということがありましたが、そこは総合ファシリテーターの出番です。「テーマとどう関連づけますか」とか「次先生のテーマにどうつなげますか」という質問を結構投げかけたと思います。

かれこれ60通を超えるメールで、アイディアはまとまっていきましたが、ワークショップ当日の進行は初めから決めていました。総合司会を私が担当し、それぞれの担当する部分については先生方がメインになって問題提起し、各グループで話し合ってもらいます。グループワーク後の共有部分は私が担当することによって、メインの先生は議論の方向性に沿って自分が担当するところのまとめを余裕をもって行うことができます。

最後に

当日は本ブログでもお馴染みの浅見昌弘君もワークショップに参加してくれました。彼からフィードバックをもらって今日は終わりにしたいと思います。

ブログをご覧の皆様こんにちは。武蔵野大学の浅見昌弘です。僭越ながら、ワークショップ参加者の目線からフィードバックしたいと思います。

全体的な流れとしては熊谷先生を皮切りに阿部先生、松崎先生、石田先生の順にファシリテーターがローテンションしました。途中、何度か参加者同士が議論できる場が用意されました。例えば、「IBの学習者像の中で自分が一番遠い学習者像は何か?」とかです。おそらく一般的なワークショップなら「自分に近いものはどれか」のような質問だと思うのですが、ここが先生の上手いところです。

自分の長所を話すのは抵抗があります。ましてや隣り合った初対面の人に話すなんてもってのほか。でもネガティブな面なら腹を割って話すことができます。謙遜を美徳とする日本人の特性を逆手に取ったやり方です。

そのおかげか、参加者同士は初対面でも打ち解けあい、どのテーブルでも活発な議論が行われていました。「未来の先生」に必要な能力はアクティブラーニングどうこうの前にこういう学習環境、雰囲気を作れるどうかなのではないでしょうか?