未来の先生展レポート vol.4

みなさん、こんにちは。阿部公彦です。台湾の明道中学でDPの日本語Bを担当しています。明道中学国際部は今年6月にDP認定を受けたばかり。よちよち歩きを始めたばかりのIB校の一員として、試行錯誤しながら前に進んでいます。

さて、みなさんは、熊谷先生や松崎先生、石田先生のように、「IBに関して深い経験と知識がなければできない」コーディネーターという経験をお持ちの先生から、「一緒にワークショップをやらないか」と誘われたら、「はい、やりましょう」と答えられますか?

IBで教え始める前の私だったら、きっと「いや、私なんかには無理ですよ」と言って断っていたに違いありません。では、なぜこのお誘いに乗らせてもらったのかというと、それはIBの学習者像が頭の片隅にあったからではないか、学習者像のリスクテイカーのイメージが自分の背中を押してくれたんじゃないかなと思います。

チームについて

とにかく、このチームの皆さんと意見を出し合うことが非常に刺激的でした。熊谷先生以外の先生はお会いしたこともない上、私以外は全てIBに関する知識や経験が豊富というという状況で、メールでやり取りする際は的外れなことを言って失望されるのではないかと心配しっぱなしでした。

でも、それは結局、杞憂でした。いや、素っ頓狂なことは言ったのは間違い無いのですが、それで不愉快に感じたり、失望したりするような方々ではありませんでした。それどころか、私の中の見るべき意見を掘り起こしてくれました。

「日本の教育はバランスがよすぎて、窮屈じゃありませんか?」と何の気なしに発言したところ、熊谷先生が面白いと取り上げ、松崎先生や石田先生もそれに対して意見を出し、面白いと言ってくれました。正直すごくうれしかったですし、それからこれを元にどんなワークショップにできるのだろうかと懸命に考えました。

骨の髄までファシリテーター

『未来の先生展』から2ヶ月経った現在、この文章を書くためにこれまでのやり取りを思い起こした時、一つのことに気がつきました。それは、みなさん、「骨の髄までファシリテーター」ということ。40を超えたいい大人まで張り切らせてしまうというのは本当にすごいことだと思います。きっとこのお三方、学生を前にしてもきっと同じなんだと思います。

学生と接する際、直接どうしろとか指示することはせず、学生の中にある素晴らしいものを指摘して、それを元に自分で走らせるということを授業やアクティビティーでしていらっしゃるに違いないと思うのです。そして私に足りないのはこの部分で、学生のような立場になって学ばせてもらえたのは本当に私にとって貴重な経験です。

もちろん、厳しい部分もありました。というのは色々な議論が出て、当初の目的から「ズレ」が出始めたときの熊谷先生からの指摘です。大体こんなもんじゃないかなと準備をしたものを先生に送ったあと、友人とお酒を飲み、気持ちよく千鳥足で帰宅の途についている最中に前触れもなくそのメールは届きました。

正直ショックでした。なんでこんな単純で大切なことに気づかなかったんだろうと。何をいい気になっていたんだろうと。一気に酔いは覚め、血の気が引き、次の日に風邪をひいてしまうくらいショックでした。

こちらのブログで、熊谷先生のことを「赤鬼」と称する教え子の皆さんの文章を読みましたが、私も身をもって体験しました。まさに赤鬼!でもそれから一生懸命に考えました、どうすればいいのかを。熊谷先生の生徒さんはどんなにか大変だったことでしょうね(笑)。でもそれも後になってしまえばいい思い出だと皆さん感じていると思います。だって私もそうなんですから。

石田先生

さてワークショップです。私と松崎先生に続いて登場したのが石田先生です。石田先生はIBやDPに関する実践例を紹介しました。

計画の段階で石田先生は話し合う活動が2つ続いた後なので、レクチャー的な内容にしようと提案されました。私と松崎先生のパートが終わった後、私が目にしたものは食い入るように前を向き石田先生の話に耳を傾ける参加者の皆さんと、その皆さんの心の中にある問いに答えるように、時には淡々と、時には感情を込めて話を続けられる石田先生でした。

この時、参加者の皆さんの頭の中は非常にアクティブだったと思うのです。石田先生はその時点でそのようになっていることを予測し、参加者の皆さんが欲する情報を適切に取捨選択し、わかりやすく伝えていきます。それを支える確かな知識と経験には本当に敬服しましたし、もっと全体を見通せる目というのが自分にとって必要だと気付きました。

最後に

このワークショップで私が担当したのは導入部の話し合いです。「IBの10の学習者像のうち、日本の教育が伸ばせていないのは何か」について参加者の皆さんに話し合ってもらいました。すごく緊張していたのと参加者の皆さんの熱気に当てられて時間はあっという間に過ぎました。もちろん充実感はすごく感じましたが、自分一人ではここまではできなかったというのも同時に感じました。一人でできなかった部分は振り返り、次に生かして行きたいです。

それから、他のワークショップで私たちのワークショップに参加した方とお話ししする機会がありました。その方から「日本の教育はバランスがよすぎて、窮屈じゃないかという話、すごく考えさせられました」というお言葉いただきました。それは私がこのワークショップに参加して他の方に多少なりとも役に立ったと感じホッとした瞬間でした。

この未来の先生展の経験も私にとっては大きなチャレンジでした。準備の過程はまるで3人の先生の学生になったようでした。そして、この経験を私の生徒たちにシェアしました。発表やグループワークに苦しむ学生たちに、一人の学習者としてチャレンジしている姿を見せることで、彼らの刺激になればいいなと考えています。

私は4年前、初めて学習者像に出会った時は「なんだ、このきれい事は。こんなこと無理だ」と向き合おうとしませんでした。そんな私ですが、ここ数年は学習者像を意識することによって、前に進んでいっているというのを強く感じます。一人の教師であると同時に生涯にわたり学習者でありたいと改めて感じました。