IBと学習環境

みなさん、お久しぶりです。タイ・バンコクにあるNISTインターナショナルスクールで国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)の日本語を担当している山田浩美です。先日、「IBという枠組み」で当ブログ(今からIBをはじめる君へ)に初登場した鵜野晋先生が勤めるインター校とは別の学校です。でも、ずいぶん前から知っていました。「まさか、ここで再会!」と、嬉しく思います。

バンコクのインターナショナルスクールで日本語を教えている鵜野先生の初寄稿です。

私の学校は6月で年度が終わったばかりです。5月に行われたIBの最終試験も気になるところですが、私の生徒は私の心配をよそに、「先生、大丈夫」となんだかおおらかに構えています。こちらは結果が出るまでドキドキなんですけどね。

さて、今回は様々な個性を持っている生徒にどのように学ぶ環境を整えるかというお話をさせてください。

教員の第一義的役割

みなさん、「マズローの欲求5段階説」という法則をご存知ですか。ピラミッド型の図表になっているものですが、下から「生理的欲求」、つまり、食べる、飲む、寝るといった生理的な欲求が満たされる事に対する欲求、そして次に「安全欲求」、安全な暮らしがしたい、安心して日々を過ごしたいという欲求、そして、それが満たされて次に出てくるのが「社会的欲求」つまり、友達を持ちたい、社会に属したい(これが満たされないと、孤独を常に感じるようになります)という欲求です。

もちろん、この上の段階の欲求が満たされる事も大切ですが、その前の段階で上述した3つの欲求が満たされるように配慮をするのが、私達教員の役目だと私は思っています。知的欲求が満たされるのは心と体の安全が確保されてからではないでしょうか。

多様な背景を持つ生徒と学習環境

私は小学生から高校生までの生徒を教えています。そして、私の日本語のクラスには様々なバックグラウンドを持つ子供達がいます。

実に多様な生徒が私の教室で日本語を学ぶわけですが、出来るだけ子供達全員が安心して日本語のクラスに来る事が出来るように、環境を整える事を私自身は常に心がけるようにしています。

IBのカリキュラム下では、子供達は常に自らが探究心を持ち、協力的に多くの活動を通して学ぶ事が理想です。私のクラスは常に子供達がグループで活動をしています。その際に、学習する場所(物理的環境)についても出来る限り子供達が学習しやすい状況を作ることは授業の内容を準備することと同じくらい重要だと私は思っています。

配慮ある教室

1つのグループが3人のときもあれば、4人のときもありますが、私の授業では基本的に3つのグループで活動を行います。この3つというのは生徒の特性に応じて、学ぶ場所を変えることを意味しています。

以下の画像をご覧ください。教室にはソファが置いてあるエリア、丸いテーブルが置いてあるエリア、そしてカーペットのエリアがあります。

これは普段、子供達が授業開始時に座る場所とは異なります。授業開始時は、全員、子供達が指定された席に座ります。四角いテーブルの部分です。

3つの学習エリア

ソファのエリアに座るグループは、小学生の場合は、担任から柔らかいものが触れる環境下で学習活動をさせるように指示がでている子供達です。クッションのような少し重さのあるものを膝において学習をすると、心も落着くという事です。そのため、クッションもソファにいくつか準備してあります。

丸いテーブルは、きちんと座って学習が出来る子供達のためのものです。この席に座る子供達の多くは、両親ともに日本人のご家庭の子供達で、机に向かい、椅子に座って宿題をするという学習形態を身につけている子供達が好む席です。

そして、カーペット。実は、ここでは子供達は寝転がって活動をしている事もあります。クリップボードに課題のワークシート等をとめ、子供達みんな、寝転がって活動をしています。丸いテーブルの下に3人座って活動をしている時もありますが、どのような形式であろうと、本人達が集中でき、安心して学習が出来る環境を準備出来るよう、ホームルーム(学級担任)の先生とも相談しながら環境を整えるようにしています。

日本で生まれ育った私にとっては、きちんとした机と椅子に座り、学習活動をする方が集中できるのですが、インターナショナルスクールでは様々な国籍の子供たちが、様々な生活文化を持ち、PYP(Primary Years Programme:プライマリー・イヤーズ・プログラム)、MYP(Middle Years Programme:ミドル・イヤーズ・プログラム)の環境下で学習をしています。それぞれに、様々な理想的な学習形態があるようです。

最後に

この前、当ブログを運営している熊谷優一先生が、本校に見えました。私も以前、熊谷先生が勤めている筑波大学附属坂戸高校を訪問したことがあります。

日本の一条校で勉強したことはあっても、私はそこで勤めた経験がないので、生徒のみなさんや、先生方のお話を聞いて驚くことばかりでした。同様に、インターナショナルスクールで教えた経験がない熊谷先生も、私の学校に来て、「文化が違う」と目を丸くされていました。

日本の学校には日本の学校の、そしてインター校にはインター校の文脈で教育が行われています。また、それぞれに強みと弱みを持っています。お互いに知り合うことで、発見があり、イノベーションにつながると私は信じています。

IB認定校は今や全世界5,000校に到達しようとしています。一口にIBといっても、異なる文脈で、多様な生徒と、異なる個性を持った先生が、同じ教育プログラムを世界各地で行っているのです。このつながりの中で、私たちは教員として、こんなやり方もあるのだと学び合うことができるのではないでしょうか。そんな風に、教育者として、私たちの視野が広がっていけばいいなと願っています。そしてそれは必ず生徒に還元されます。